
【高校教科書に「夫婦別姓」記述が急増 賛否分かれる教育現場の声】
文部科学省がこの春公表した2026年度から使用される高校教科書の検定結果で、「選択的夫婦別姓」に関する記述が増えていることが分かった。とりわけ家庭科の教科書では、すべての出版社がこのテーマを取り上げており、関係者の間では「事実上の“教科書標準化”ではないか」との声もあがっている。
問題視されているのは、その記述の内容だ。「夫婦別姓」について生徒に意見を求める設問が多く見られるが、表現が賛成に誘導するようなものになっているケースが少なくない。
たとえば、ある教科書には〈日本以外に夫婦に同姓を義務づける国は見当たらず、国連女子差別撤廃委員会は、夫婦別姓を認めない日本の民法は差別的であるとして、数度、改善勧告を出している〉との記述があり、まるで制度導入を前提とするかのような印象を与える。
このような記述に対して、「これは左派のパンフレットではなく、国が検定を通した高校教科書なのか」と疑問の声が上がっている。
記述が世論と乖離?
そもそも、選択的夫婦別姓をめぐっては国民の間でも意見が分かれている。内閣府が2021年に実施した世論調査によると、「夫婦同姓の現行制度を維持したい」と答えた人は27.0%、「現行制度のまま旧姓の通称使用を拡大するべき」が42.2%で、「選択的夫婦別姓を導入すべき」は28.9%にとどまった。
にもかかわらず、一部の教科書ではこれよりも古い2017年の調査結果を引用し、「導入容認が42.5%」と紹介する記述も見られた。こうした古いデータが現代の生徒に提示されることに、「誘導的ではないか」という指摘もある。
「子どもの姓」は触れず
さらに課題なのは、夫婦別姓を導入した際に問題となる「子どもの姓」についての記述があまり見られないことだ。家庭科の教科書のうち、子どもの姓についてきちんと触れているものは半数以下にとどまる。
制度名には「選択的」とあるが、当事者である子どもにとっては、父母のどちらかと姓が異なることを“強制的に受け入れる”ケースもありうる。ところが、そうした現実的な懸念や、旧姓の通称使用が広がっている現状について書かれた教科書はごくわずかだ。
文部科学省はこの点について、「教科書の記述内容はあくまで出版社側の判断」と説明しているが、公平性の観点から議論を呼びそうだ。
「差別」という言葉の使い方にも違和感
一部の教科書では、結婚時に「圧倒的多数のカップルが男性の姓を選んでいる」と記述し、男女差別の視点からこの事実を取り上げている。
だが、生活の実態を見ると、日本では多くの家庭で妻が家計を管理しているというデータもある。2012年の国際調査(ISSP)によれば、「妻が家計を握り夫に小遣いを渡す」というスタイルは日本で55.7%に達し、世界平均の15.2%を大きく上回っている。表向きは夫の姓でも、家庭内の“実権”は妻が握っているケースも多いのが実情だ。
こうした現状に照らすと、「夫婦同姓=女性差別」と決めつける表現に、違和感を覚える人も少なくない。
教育現場に求められるバランス
選択的夫婦別姓の議論は今後も続くと見られ、国会でも意見が割れている。だからこそ、教育現場で扱う際には、中立的な立場で情報を提示し、生徒自身が考えるきっかけを与えることが求められる。
賛成・反対のどちらかに偏った内容ではなく、多様な意見と背景を伝える教材であるべきだ——。この問題は、教科書に限らず、今後の教育のあり方そのものを問うものと言えるだろう。
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