
台湾LNG基地を標的に訓練か】中国軍が4月に実施した大規模演習を専門家が分析「インフラ攻撃能力が向上
中国軍が4月初旬に実施した台湾周辺での大規模軍事演習について、公益財団法人「国家基本問題研究所」は、台湾のエネルギーインフラを明確に意識した訓練だった可能性が高いと分析した。特に注目されたのは、台湾西部に実在する液化天然ガス(LNG)基地を模した施設への実弾射撃だ。台湾の発電はLNGに強く依存しており、この演習は事実上、台湾社会の心臓部を狙うメッセージだったと専門家は見る。
LNG依存の台湾にとって無視できない動き
中国軍が標的としたとみられるのは、台湾西部・永安地区にあるLNG保管タンクの基地。この施設を模した構造物が中国浙江省沖の南漁山島に造られ、多連装ロケット砲による実射訓練が行われた。
台湾では電力の約4割をLNGで賄っており、国内の備蓄量はわずか13日分とされている。もしこのインフラが機能を失えば、台湾の発電は即座に深刻な影響を受ける。
研究所の中川真紀研究員は、「これは明らかに台湾のエネルギー中枢に対する威嚇だ。軍事演習という名目でありながら、実質的には準備された攻撃シナリオを試している」と警鐘を鳴らす。
シーレーン封鎖も視野か 空母や海警船も投入
演習ではさらに、台湾へのLNG輸送ルートを断つことを想定したシーレーン封鎖の訓練も行われた。空母「山東」を含む艦艇が台湾周辺を巡航し、中国海警局も参加。民間船舶を取り締まる名目で訓練が行われたが、実際には漁民や退役軍人を中心とする「海上民兵」を乗せた準軍事的な船舶が動員された形跡もあるという。
台湾は島国であり、エネルギーも貿易も海外依存度が極めて高い。海上交通の遮断は、経済に直結する致命的な打撃になる。
対艦ミサイルを装備したH-6K戦略爆撃機も出動
今回の演習では、中国の戦略爆撃機H-6Kが超音速対艦弾道ミサイルを装着して飛行していたことも確認されている。これは単なる誇示ではなく、米軍の接近を阻む能力を現場で確認する目的があったとみられる。
このような動きは、中国軍が「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略を本格化させている兆候でもある。台湾海峡における米軍の行動を牽制する狙いがあるのは明白だ。
台湾有事の現実味が増す中、国際社会に問われる対応
中国軍は、今回の訓練を「台湾独立勢力への厳重な警告」として正当化しているが、実態はむしろ、実戦を想定した高度な軍事オペレーションの予行演習に近い。インフラ攻撃、海上封鎖、米軍けん制という3点セットは、台湾を無力化する最短ルートとも言える。
日本やアメリカを含む国際社会にとっても、これは他人事ではない。台湾有事はすなわちシーレーンの危機であり、日本のエネルギー安全保障にも直結する。今後の演習にどう対応するか、各国の戦略が問われている。