洋上風力に吹く逆風 三菱商事が522億円の損失計上、再エネの現実が露呈

洋上風力に立ちはだかる現実 三菱商事の巨額損失が突きつけた問い

真っ青な海と空、そして白く輝く巨大風車――。そんな清々しいビジュアルが印象的な風力発電の広告を、最近よく目にするようになった。環境に優しく、未来志向。そんなイメージで語られる「洋上風力発電」が、今、日本でも本格導入に向けて動き出している。だが、その舞台裏では、想像以上に厳しい現実が立ちはだかっている。

三菱商事、まさかの522億円減損

今年2月、三菱商事が突如発表したのは、国内3海域で進めていた洋上風力発電プロジェクトに絡む522億円の減損処理。これは2024年度の4~12月期連結決算に大きく響き、同社の風力事業が大きな壁に直面していることを裏付けた。

同社が手掛けていたのは、秋田県と千葉県沖での洋上風力。2021年の公募で落札した際は、あまりに低い価格提示が話題となり、「総取り」とも言われたが、その後の世界的な資材価格高騰や円安、建設コストの急上昇が重なり、採算は崩壊。事業は暗礁に乗り上げた。

会見で中西勝也社長は「インフレなど想定以上の外的要因が押し寄せた」と説明しつつ、「再エネへの挑戦にブレーキをかけるものではない」と強調した。

「再エネ万歳」で済まされない現実

だが問題は、このニュースがメディアで大きく取り上げられていないことだ。日本経済新聞は「洋上風力、日本も試練」(2月7日)と報じたが、三菱商事の説明をそのまま伝えるにとどまり、現場取材や独自の分析には乏しい。

環境にやさしい、クリーンで持続可能――そうした再生可能エネルギーへのポジティブな印象が先行しがちだが、裏側には地に足のついた実態と向き合う必要がある。

朝日新聞の報道データベースで調べると、2024年度の記事件数で「風力発電」が196件だったのに対し、「原発」は2576件。数字がすべてではないが、再エネの現場を丹念に追いかける意志がどこまであるのか、正直疑問は残る。

日本の洋上風力に立ちはだかる構造的課題

そもそも、洋上風力発電には構造的な難しさがある。欧州とは異なり、日本近海は急深の海が多く、設置に向かない地形が多い。加えて台風や地震といった自然災害も多く、設備の耐久性や保守点検の手間もかかる。

さらには、日本国内には大型風車の製造拠点が乏しく、タービンや部品の多くは中国や欧州からの輸入に頼っている。結果として、為替や国際物流の影響をもろに受ける構造になっている。

そこにきて、欧米と中国との経済的分断が進む中、今後の調達にもリスクが生じる可能性がある。制度面でも、建設許可や漁業者との調整など、乗り越えるべきハードルは少なくない。

海外でも逆風、オーステッドも巨額損失

実はこの問題、日本に限った話ではない。洋上風力で世界トップを走るデンマークのオーステッドも、昨年末に日本円換算で約2600億円の減損を発表している。理由は三菱商事と同じく、資材や建設コストの高騰だ。

米国や英国でも、風力発電事業の見直しや中断が相次いでおり、欧州主導で進んできた「再エネドリーム」に冷や水が浴びせられているのが実情だ。

知りたいのは「実態」だ

もちろん、再生可能エネルギーの推進が時代の要請であることは間違いない。エネルギー安全保障や脱炭素という大きな課題に向けて、風力発電は重要な選択肢の一つだ。

しかし、その正当性を支えるのは、イメージや理想論ではなく、実態と現実に根ざした議論だ。特に日本のような地形・経済構造では、欧州のモデルをそのまま持ち込むことはできない。

健全な再エネ政策を支えるためにも、報道はもっと深く現場に入って、数字の裏にある人の声や現実を伝えていく必要がある。賛美や批判を越えた“成熟したエネルギー議論”こそ、今の日本社会に必要とされている。

「再エネ」賛美より知りたいのは実態  洋上風力に暗雲 経済ジャーナリスト・石井孝明

関連記事

おすすめ記事

  1. 「財務省解体デモ」という言葉がSNSで一時的に話題となったことをご存知でしょうか。2025年1月3…
  2. 2025年以降に予定されている増税・負担増のリストを作りました。 以下は画像を基に作成した「…
  3. 外国人による農地取得に懸念 規制不十分で広がる“見えない脅威” 日本の農地が今、静かに“買わ…
  4. 2025年参院選 各党の物価高対策を徹底比較|消費税・給付金・減税案の違いとは?
    【物価高にどう立ち向かう?】2025年参院選、各党の公約を比較 消費税・給付金の対応が分かれ道 …
  5. 参院選2025:注目すべき「コメ政策」 各党のアプローチを徹底解説 今年7月20日の参院選で…

新着記事

  1. 連続した異常接近が明らかに 防衛省は10日、東シナ海上空の公海で9日と10日の2日間、中国人…
  2. 参院選2025:年金・社会保障「共通基盤」で浮かぶ与野党の対立 7月20日の参院選を前に、有…
  3. 【2025年参院選】関税対策めぐり各政党の評価分かれる 中小企業支援や外交姿勢が争点に 20…
  4. ホワイトハウスワシントン2025年7月7日 石破茂 閣下日本国総理大臣東京 親愛なる総…
  5. 各党が選ぶ「物価高対策」その最優先課題とは? 物価上昇が家計を直撃するなか、2025年の参議…
  6. インドネシア・レウォトビ火山が大規模噴火 日本の気象庁が津波の影響を精査中 7月7日正午すぎ…
  7. 【紅海の緊張高まる】イスラエル軍、イエメン空爆 日本郵船の「ギャラクシー・リーダー」も標的に …
  8. 【参議院選挙の投票方法】初めてでも安心!流れや注意点を解説 2025年7月に実施される第27…
  9. 参院選2025 各党の安全保障とエネルギー政策を徹底比較 7月に控える第27回参議院議員通常…
  10. 年少扶養控除・子ども手当(児童手当)
    年少扶養控除とは? 年少扶養控除はかつて存在した税制対象 「年少扶養控除」とは、その名…
ページ上部へ戻る