トランプ米大統領、対中100%追加関税を発表 レアアース規制への報復で米中対立が再燃

トランプ米大統領、対中100%追加関税を発表 レアアース規制への報復で米中摩擦が再燃

アメリカのトランプ大統領は10日、中国がレアアース(希土類)などの輸出を厳しく制限する新たな規制を打ち出したことに強く反発し、11月1日から中国製品に100%の追加関税を課すと表明した。中国の習近平国家主席との会談中止も示唆しており、米中関係は再び緊張の度を強めている。

中国が仕掛けた“レアアースの壁”

中国政府は9日、レアアースやリチウムイオン電池などの輸出規制を強化すると発表した。レアアースは電気自動車や風力発電、スマートフォンなどに欠かせない金属で、中国が世界の精製の大部分を担っている。新しい規制では、輸出先の国や最終的な用途を明確にしなければ許可が下りない仕組みとなり、第三国を経由した「抜け道輸出」を防ぐ狙いがあるとみられる。

中国は「国家安全保障上の措置」と説明しているが、実際にはアメリカが進めてきた半導体などの輸出制限への報復と受け止められている。さらに、中国企業が海外でレアアースを採掘したり、技術支援を行ったりすることも制限する方針で、いよいよ資源を国家戦略として囲い込む動きを強めている。

トランプ氏「中国が世界を人質にしている」

トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し、「中国の規制は世界中の人々の生活を苦しめる。中国が世界を人質にするようなことは許さない」と強い言葉で批判した。そして、現在の関税に加えて100%の追加関税を上乗せする方針を明らかにした。また、重要なソフトウェアや航空機部品の対中輸出を制限する可能性にも言及した。

アメリカはすでに、中国からの輸入品に10%の関税を課しており、さらに合成麻薬「フェンタニル」流入を理由に20%の制裁関税を実施している。今回の追加分を含めれば、合計で最大130%という異例の高関税になる見通しだ。

首脳会談も不透明に 「まだ中止していないが…」

トランプ大統領は今月末、韓国で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で習近平国家主席と会談する方向で調整していたが、「まだ中止とは言っていないが、会うかどうかは分からない」と述べ、事実上の中止も視野に入れていることを示唆した。それでも訪韓の意向は変えず、首脳会談の有無にかかわらず中国に圧力をかけ続ける姿勢を見せている。強硬な発言の裏には、中国に譲歩を迫る狙いがあるとみられる。

世界に広がる波紋 EVもスマホも直撃

レアアースは電気自動車やスマートフォン、風力発電機など、多くの産業に不可欠な素材だ。供給が止まれば、世界中の製造ラインがストップしかねない。実際、中国の規制発表直後から、自動車メーカーや電子部品メーカーの間では「在庫を確保できるのか」という不安の声が相次いでいる。

特にリチウムイオン電池の材料規制は電気自動車(EV)業界にとって大きな痛手だ。コスト上昇が避けられず、最終的には製品価格にも跳ね返る可能性がある。アメリカの株式市場では、ハイテク株が大きく売られる一方、資源関連株が上昇。投資家の間では「米中貿易戦争の再燃」との見方が広がっている。

トランプ政権の狙い 「強いアメリカ」を演出

今回の強硬策には、トランプ政権なりの計算がある。ひとつは、中国との交渉を有利に進めるための圧力。もうひとつは、国内向けのパフォーマンスだ。支持者に対して「アメリカの利益を守る強いリーダー」であることをアピールする意図が透けて見える。

ただ、関税を引き上げれば輸入品の価格は上がり、アメリカ国内の物価上昇につながる。企業のコスト増、消費者の負担増、景気の減速――こうした副作用も無視できない。貿易戦争の再燃は、結局アメリカ経済にもブーメランのように跳ね返るリスクをはらんでいる。

中国の思惑 「資源を武器に」交渉を優位に

一方の中国は、資源分野での圧倒的な優位性を外交カードとして使い、アメリカを揺さぶろうとしている。供給を止めれば相手の産業を直接的に痛めつけることができる。これは軍事ではなく、経済の力を使った“静かな戦い”だ。

しかし、自国企業にとっても痛みは避けられない。輸出を減らせば利益は落ち、国内景気にも影響が出る。中国経済が減速傾向にある中で、この路線をどこまで続けられるかは不透明だ。

代替供給を探す国々 日本も動き始める

アメリカや日本、欧州は、中国依存からの脱却を目指して動き出している。アメリカでは国内のレアアース鉱山の再稼働が進み、日本もオーストラリアやベトナムなど資源国との連携を強化。さらに、磁石を使わないモーターなど、レアアースに頼らない新技術の研究も進められている。

ただし、こうした取り組みには時間とコストがかかる。鉱山開発や精製設備の整備には数年単位の時間が必要で、短期的には中国への依存を完全に断ち切るのは難しいのが現実だ。

日本とアジアも板挟みに

日本は、自動車や家電などレアアースを大量に使う産業を抱えており、今回の規制強化の影響を避けることはできない。政府は国内でのリサイクル促進や代替素材の研究を支援する方針だが、即効性はない。さらに、中国が「再輸出しないことを保証せよ」と求める可能性もあり、日本や韓国、東南アジア諸国が米中の板挟みになる懸念が高まっている。

素材をめぐる“静かな冷戦”

今回の米中対立は、単なる関税の応酬ではない。焦点は「素材を支配するか、されるか」という国家の根幹に関わる問題だ。トランプ政権は圧力で交渉を有利に進めようとし、中国は資源を武器に相手を揺さぶる。どちらも簡単には引かない構えだ。

勝敗を分けるのは、どちらが早く代替供給網を整えられるか、経済の痛みにどこまで耐えられるか、そして国際社会がどちらの側に立つか――この3点にかかっている。

“素材の戦争”が始まった

レアアースをめぐる今回の衝突は、国の威信と経済の根幹をかけた「素材の戦争」の始まりだ。アメリカは関税で応戦し、中国は資源で対抗する。世界はその狭間で供給網をどう守るか、厳しい選択を迫られている。

この争いが長引けば、私たちの生活にも確実に影響が出る。スマートフォンも電気自動車も風力発電も、そのすべてがレアアースに支えられているからだ。米中の衝突は遠い世界の話ではない。私たちの暮らしの根っこにある“見えない冷戦”が、静かに始まっている。

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