高温ガス炉を活用した水素製造施設、茨城・大洗町で計画始動

水素製造施設の建設計画

日本原子力研究開発機構(JAEA)は、次世代原子炉「高温ガス炉」(HTGR)を活用した水素製造施設の建設を進めています。計画では、茨城県大洗町にある実験炉HTTRの隣接地に新しい水素製造施設を設置し、2028年度の運転開始を目指します。もし実現すれば、世界初の高温ガス炉を用いた水素製造が行われることになります。

高温ガス炉の特徴とメリット

高温ガス炉は、従来の原子炉と同様に核分裂反応を利用しますが、冷却材として水ではなくヘリウムガスを使用します。この特徴により、炉内の温度を800℃以上に高めることができ、水素製造に必要な高温を安定的に供給することが可能です。この高温を利用し、メタンと水を反応させて水素を生成する計画です。

現在の水素製造の課題

従来の水素製造方法は、化石燃料を使用するものが主流で、これにより二酸化炭素が大量に排出され、環境に悪影響を及ぼしています。また、太陽光発電を利用した方法は、天候に影響されるため安定供給が難しいという課題があります。しかし、高温ガス炉を使用した水素製造は、安定して運転できるため、電力と水素の安定供給が可能となり、脱炭素社会への貢献が期待されています。

高温ガス炉の安全性と技術的課題

高温ガス炉は、自己安定性が高く、万が一の事故時でも炉心構成材である黒鉛が高温に耐え、冷却システムが機能しない場合でも熱放射により冷却が可能です。しかし、課題も存在します。例えば、ヘリウム配管の破断により高温の黒鉛が空気中の酸素と接触し、火災のリスクを引き起こす可能性があります。また、燃料球が破損すると炉内が放射能汚染される可能性も指摘されています。

水素製造施設の経済的背景

水素の需要は、燃料電池自動車や製鉄所、化学工場など多岐にわたります。日本政府は、2025年度の予算案で高温ガス炉を用いた水素製造施設の開発費用として、前年度比6割増となる436億円を計上しています。これにより、施設の設計・製作が進められ、商業化に向けた重要なステップが踏み出されています。

国際的な競争と日本の立場

日本は1960年代から高温ガス炉の開発に取り組んでおり、これまでに多くの研究成果を上げてきました。現在、米国や中国、英国などが高温ガス炉の開発を加速させており、競争が激化しています。日本は、この技術のリーダーシップを維持するために、実証炉の設計・製作を進め、2030年代後半の運転開始を目指しています。

今後の展望と課題

JAEAの坂場成昭・高温ガス炉プロジェクト推進室長は、2030年までに水素製造に成功し、世界トップの技術を育成したいと述べています。しかし、技術的な課題やコスト競争力、規模の拡大など、解決すべき問題も多く残されています。今後の研究開発と社会的な受け入れが、実用化に向けた鍵となるでしょう。

高温ガス炉を利用した水素製造施設の開発は、脱炭素社会の実現に向けた重要な一歩となります。この計画が成功すれば、日本のエネルギー政策に大きな影響を与えることが期待されます。しかし、技術的な課題を乗り越え、安全性の確保とコスト競争力を高めるための努力が必要です。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


おすすめ記事

  1. 近年、多くの政治家が選挙公約として掲げてきた次世代型路面電車(LRT)の導入。しかし、実際の利用状…
  2. 日本の温泉資源、オーバーツーリズムによる危機的状況 日本各地に点在する約2万7,000の温泉…
  3. 2025年4月1日、中国人民解放軍は台湾周辺で大規模な軍事演習を実施しました。台湾当局によると、演…
  4. 令和7年度の国民負担率、46.2%に達する見通し 令和7年3月5日、財務省は令和7年度の国民…
  5. 日本を訪れる外国人観光客の数は年々増加しており、特に中国人観光客の訪日人数は目覚ましく、昨年は70…

新着記事

  1. iPS細胞で1型糖尿病治療に新たな一歩 京大病院が世界初の治験を開始 1日数回のインスリン注…
  2. トランプ政権、NVIDIAの中国向けAIチップを全面輸出禁止 日本の半導体産業にも衝撃 米国…
  3. 高圧的な男性
    検察の「沈黙の圧力」 性暴力事件の被害女性に送られた“口止めメール”の衝撃 大阪地検の元トッ…
  4. スマホ回線が乗っ取られる?都市部で発見された“ニセ基地局”の衝撃 スマートフォンの回線が、知…
  5. 米国のドナルド・トランプ前大統領は14日、半導体やスマートフォンなど中国製電子機器の輸入について「…
  6. 迷走するトランプ関税政策スマホ「除外」から一転、半導体関税へ 振り回されるテック業界 米トラ…
  7. 国保未納、税金で穴埋め 外国人医療費問題に新宿区が悲鳴
    外国人の「医療費未払い」問題、自治体を圧迫 制度見直しへ議論急務 日本の誇る皆保険制度が、い…
  8. 【高校教科書に「夫婦別姓」記述が急増 賛否分かれる教育現場の声】 文部科学省がこの春公表した…
  9. 洋上風力に立ちはだかる現実 三菱商事の巨額損失が突きつけた問い 真っ青な海と空、そして白く輝…
  10. 感染症の流行
    条約より先に検証を──「パンデミック条約」大筋合意の裏で問われる“あのとき”の総括 世界保健…
ページ上部へ戻る