
迷走するトランプ関税政策
スマホ「除外」から一転、半導体関税へ 振り回されるテック業界
米トランプ政権の関税政策が、再び混乱を招いている。注目を集めたのは、スマートフォンやパソコンなど中国からの輸入品に対する高関税措置。11日夜にはこれらを「相互関税」の対象から外すと発表されたばかりだったが、わずか2日後の13日、今度は「別の関税枠」で再び対象に加えると表明された。二転三転する対応に、IT・電子機器業界からは困惑とため息が漏れる。
「除外」のはずが…すぐに別の関税枠へ
今回のドタバタの発端は、米税関・国境警備局(CBP)が発表した新しい関税措置。対象となっていたスマホや半導体製造装置、ディスプレイ、パソコンなどが「一時的に」関税から除外されたことで、アップルをはじめとするテック企業は胸をなでおろした。
特にiPhoneをはじめとする製品への影響は大きく、関税がそのまま上乗せされれば、消費者価格は最大数百ドル跳ね上がると懸念されていた。一部報道では「iPhone最上位モデルが2000ドルを超える可能性も」と指摘されていたほどだ。
だが、ぬか喜びも束の間。13日にはラトニック米商務長官が「これらの製品は今後、新設する半導体関税の対象に含める」と発言。つまり、関税は別の形で課されるという“別ルート”が準備されていたのだ。
トランプ政権の狙いと業界の戸惑い
トランプ大統領はこれまでも、中国からの輸入品に対し高関税を課すことで、自国製造業の立て直しと安全保障の強化を掲げてきた。ただ、政策の一貫性には疑問符がつく。
「一時は除外と言っておいて、またすぐ別の名目で関税を課す。こんな不安定な政策のもとで、サプライチェーンをどう構築すればいいのか」。米西海岸に本拠を構える大手部品メーカーの幹部は、あきれたように語る。
関税回避を狙って、台湾やメキシコなどに生産拠点を移そうとする動きも広がっているが、それにも限界がある。コスト増に加え、物流や人材確保など別のリスクも膨らんでいる。
「政治の論理」と「市場の論理」がかみ合わない
トランプ政権の関税強化路線は、今に始まったことではない。だが今回のように“外した直後に別の枠で再課税”という流れは、さすがに市場も予測できなかった。
ウォール街では「政策の読みづらさが企業投資を冷やす」との声が強まっており、S&P500指数はトランプ政権発足以来、初めて10%超の調整局面を迎えている。著名投資家ビル・アックマン氏は「関税の即時停止を」と訴え、ヘッジファンドの巨人レイ・ダリオ氏は「このままでは景気後退どころか、本格的な経済危機になりかねない」と警告を発している。
中国は「小さな一歩」と評価も…
一方の中国も、今回の「一時的除外」には反応を示している。中国商務省は「誤った政策の修正に向けた小さな一歩」と歓迎しつつ、さらに関税撤廃を求める姿勢をにじませた。
ただし、米中関係は一朝一夕に改善する兆しは見えない。特に半導体など戦略物資に関しては、米政府は「国家安全保障の観点から精査が必要」との立場を崩しておらず、今後も中国製品を対象とした新たな制限が打ち出される可能性は高い。
今後の焦点は「どの製品が、どの関税に?」
結局のところ、テクノロジー業界が最も懸念しているのは「予見可能性の欠如」だ。製品ごとに異なる税率が適用され、その適用タイミングも流動的。トランプ政権が打ち出すたびに企業は対応に追われ、長期的な戦略が描けなくなる。
アップル、インテル、TSMCなどはすでにアメリカ国内での生産体制の構築に乗り出しているが、それも不透明な政策のなかでは“賭け”に等しい。
一連の迷走が意味するのは、「保護主義的な政策が国内産業を本当に守れるのか」という根源的な問いだ。現場の声に耳を傾け、持続可能な産業政策をどう描くのか。次の大統領選をにらんで、米国内でも議論は避けられそうにない。
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