
米中対立が再燃 中国、元切り下げで「報復」か
米中の貿易対立が新たな局面に入った。ドナルド・トランプ米大統領が発表した大規模な追加関税に対し、中国政府は「断固たる措置で対抗する」との声明を発表。具体的には、米国からの輸入品すべてに34%の関税を課すという異例の対応に踏み切った。
その一方で、金融市場では中国がさらなる対抗策として、人民元の大幅な切り下げに動くのではないかとの見方が急速に広がっている。為替という“最後のカード”を中国が切るのかどうか、市場関係者の関心は日に日に高まっている。
「最大30%下落の可能性」 米系金融機関が試算
こうした中で注目を集めているのが、複数の大手金融機関による人民元切り下げのシナリオだ。
ウェルズ・ファーゴの為替ストラテジスト、アループ・チャタジー氏は、「今後2カ月以内に人民元が最大15%切り下げられる可能性がある」と警鐘を鳴らす。また、ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループはさらに踏み込んで、「30%の下落も排除できない」と見ている。
一方、みずほフィナンシャルグループはより慎重な見方を示し、当局が為替水準を1ドル=7.5元程度まで調整するのではないかと予測する。これは約3%の下落に相当する。
通貨切り下げの“副作用” 中国政府は慎重姿勢崩さず
ただし、人民元の切り下げには大きなリスクも伴う。最大の懸念は、資本流出の再燃だ。過去には2015年の元切り下げをきっかけに、中国国内から巨額の資金が海外へ流出し、株式市場の大混乱を招いた経緯がある。
このとき、世界の投資家は「中国は市場をコントロールできていないのではないか」と懸念を強めた。結果として、人民元の国際的な信用も大きく揺らいだ。
この苦い経験があるからこそ、中国政府は現在でも「為替の安定性」を最優先してきた。人民元の国際化を目指す上で、極端な変動は好ましくないという認識がある。
「為替は最も強力な武器」 米中関係に再び緊張
とはいえ、今回のように想定を超える対米関税が発動された場合、中国政府内でも通貨政策の再検討が始まっても不思議ではない。
ワシントンの有力シンクタンク、ブルッキングズ研究所のロビン・ブルックス上級研究員は、自身のSNSで「人民元相場をテコにすることは、中国にとって最も強力な外交・経済ツールであり、世界市場に大きなインパクトを与える」と発言している。
中国が為替を“武器”として使えば、輸出企業の競争力は高まるが、米国側の反発は必至だ。トランプ政権は2019年、中国を「為替操作国」に認定した過去がある。今回の動き次第では、再び同様の非難が飛び交う可能性がある。
世界市場に広がる衝撃 株安・円高の連鎖反応
市場はすでに不安定な動きを見せ始めている。4月7日、香港のハンセン指数は前日比で約9%の急落。上海・深セン市場を代表するCSI300も5%超下落した。
この動きは米国にも波及し、S&P500、ダウ平均、ナスダックの主要3指数はそろって5~6%の下げ幅を記録。2008年のリーマン・ショック以来の“全面安”となった。
為替市場でもリスク回避の流れが加速し、安全資産とされる日本円とスイスフランが買われた。円は対ドルで0.45%上昇、スイスフランは0.6%以上の伸びを見せた。対照的に、オーストラリアドルやニュージーランドドルといった「リスク通貨」は軒並み売られている。
ASEANも巻き込みつつある貿易摩擦の波
事態はアジア地域全体にも影響を広げている。マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、「ASEAN諸国が一丸となって対応すべきだ」と強調し、インドネシアやベトナムの首脳と連携を模索。中国の習近平国家主席もマレーシアやカンボジアを訪れ、域内での支持固めに乗り出した。
東南アジアにとっても米中の争いは「対岸の火事」では済まされない状況だ。サプライチェーンの混乱や為替変動は、自国経済に直撃しかねない。
トランプ氏は強硬姿勢崩さず 中国は“次の一手”に沈黙
こうした中、トランプ大統領は関税措置を「必要な経済的ワクチン」と表現し、撤回する意思を一切見せていない。一方、中国側も「一方的ないじめには屈しない」と応酬を強め、対話の糸口は見えてこない。
「次に動くのはどちらか」――。米中の駆け引きは一段と緊迫感を増している。人民元という“切り札”がテーブルに乗るのかどうか。世界中が固唾をのんで見守っている。