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- 中国人移住急増に潜む“移民ブローカー”の影 制度の隙突くビザ取得ビジネスの実態

「簡単に取れる」日本のビザ、中国人からの相談殺到 狙われる制度の隙
「報酬さえ払えば、ビザは用意できる」。中国のSNSでは、そんな言葉が堂々と飛び交っている。
日本で事業を行う外国人向けの「経営・管理ビザ」。この制度を利用して日本に移住しようとする中国人が急増し、行政書士事務所に相談が殺到している。なかには事業の実態が曖昧なまま、形式だけを整えてビザを取得しようとする例も少なくない。背景には、日本の制度を逆手に取った「移民ブローカー」の存在がある。
急増する中国人からの相談
大阪市中央区にある行政書士法人「大阪国際法務事務所」。代表の李姫紗さん(33)のもとには、毎月100件以上のビザ相談が寄せられる。そのうち6〜7割は、中国人からの「経営・管理ビザ」に関するものだ。
「スーツケースを持ったまま、旅行の合間に立ち寄る方もいます」。李さんは、ここ数年の急増ぶりに驚く。中には本気で日本でビジネスを始めようとする人もいる。リチウム電池の研究拠点設立や、新商品の開発拠点設立など、資本金1億円を用意して挑む人もいる。
しかし最近、明らかに事業計画が不自然で、日本語も機械翻訳のような内容の申請書が持ち込まれるケースが目立ってきた。
「他の行政書士ならやってくれるのに」。そう不満を漏らす中国人もいるという。
李さんは危機感を強める。「事業の実態がないまま、書類だけ整えて移住させている仲介業者がいるのではないか。中には無資格で行政書士を名乗る人もいるかもしれない」。
法改正が呼び水に
2015年の入管難民法改正で、「投資・経営ビザ」は「経営・管理ビザ」へと名称が変わった。同時に、準備期間として4カ月間の在留資格が新たに設けられたことで、口座開設や法人登記などの手続きが入国後でも可能となった。
この変更により、以前は取得が難しかったビザが「ぐっと現実的」になった。事実、2023年のビザ発給件数は5,426件。2014年の995件から、わずか10年足らずで5倍以上に増えている。
だが、それに見合う審査体制は整っていない。
元入管職員で、現在は行政書士として活動する木下洋一さん(60)はこう明かす。「書類の体裁が整っていれば、通るのが実態。現地調査はよほどのことがない限り行われない。今は他のビザでも申請が多く、職員が手一杯で、厳格な審査をする余裕がないんです」。
集まる「中間層」中国人 大阪に新しい定住の波
大阪市浪速区や西成区。建売住宅が並ぶ街の表札には、「陳」や「黄」といった中国系の姓が並び始めた。
昨年6月に浙江省から家族4人で来日した孫建国さん(仮名・32)は、ネットショップを開いて生計を立てている。500万円の資本金は決して安くなかったが、中国でも「日本はチャンスがある」という空気が広がっていたという。
「友だちも次々に来ていますよ。500万をかき集めてでも来る価値があるって、みんな言ってますから」。
福岡県立大学の陸麗君准教授や大阪公立大学の水内俊雄客員教授が2022年に行ったアンケートによれば、中国人が住む戸建て住宅34世帯のうち、35%が年収500万〜800万円。53%が住宅購入価格3,000万円台というデータもある。
水内教授は、「彼らは富裕層ではなく、都市中間層。新しい形の中国人移住プロセスが、大都市部で確実に進んでいる」と指摘する。
「移民セット」22万円でビザ取得 SNSで暗躍するブローカー
中国版InstagramともいわれるSNS「小紅書(RED)」には、驚くべき投稿があった。
「220万円で、一家3人の経営・管理ビザ、住居も用意します」。
書き込みの主は、昨年11月に京都府警に摘発された中国人女性(30代)。資格を持たないまま会社登記手続きを請け負い、ビザ取得を仲介していたとされる。女性はその後、不起訴で釈放されたが、今もSNSで「民泊の許可が下りた」などと投稿を続けている。
彼女の知人男性によれば、女性は中国人の希望者を募り、仲間とともに「ペーパー会社」を用意。移住希望者を代表取締役に仕立て上げ、ビザを取らせていたという。
「京都市伏見区のアパートに表札だけの会社が集中してます。中に人の気配はない。見ればすぐわかるのに、審査が甘すぎる」と、知人男性は憤る。
制度を守るために求められること
阪南大学の松村嘉久教授(観光地理学)は、「ビザ制度の隙を突いた悪質なブローカーの動きは明らかだ」と断じる。
「移住希望者に方法を指南すること自体は違法ではないが、ペーパー会社で虚偽申請を手助けするのは論外。行政は現地調査を強化し、不正の温床になっている構造にしっかりメスを入れるべきだ」と訴える。
本来、「経営・管理ビザ」は日本での事業展開を希望する人のための制度だ。だが現実には、「移住のための抜け道」として使われてしまっている側面もある。制度の信頼性を守るために、いま、行政や支援者がどこまで本気で実態を把握し、不正を取り締まるかが問われている。
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