日本の免許に切り替えて世界へ?増える中国人ドライバーと制度の“穴”

「観光ビザで来日して、日本の運転免許を取って帰国」——そんな現象がいま、静かに広がっています。特に目立つのが中国からの訪日者たち。実は、日本の運転免許証には「世界で使える」という大きな価値があるのです。

背景にあるのは「外免切替(がいめんきりかえ)」という制度。海外で取得した有効な運転免許証を、日本の免許に切り替えることができる仕組みです。簡単な筆記試験と技能試験をクリアすれば、れっきとした「日本の免許」を手にすることができます。

○×10問だけ?“ゆるい”学科試験

手続きの流れはいたってシンプルです。海外の免許証とその日本語訳、パスポートなど必要書類を揃え、各都道府県の運転免許センターに提出。そのうえで、視力検査などの適性検査、そして筆記・技能試験を受けることになります。

驚くべきは筆記試験の内容。出題されるのはたったの10問、それも○×の2択式です。7問正解すれば合格。つまり、交通ルールの基礎知識さえあれば、そこまで苦労せずにパスできる仕組みになっています。

技能試験についてはやや難易度が上がりますが、教習所でしっかり練習すれば合格可能。実際、多くの外国人がこのルートを使って、日本の免許を取得しているのが現状です。

日本の免許が“パスポート”になる?

では、なぜわざわざ日本の免許を取るのか——その理由のひとつが「国際免許」です。

日本はジュネーブ条約加盟国。そのため、日本で免許を取得すると、そのまま「国際免許証」を発行してもらうことができ、約100カ国での運転が可能になります。ちなみに、中国の免許証で運転できる国は、わずか10カ国程度。この差は大きいと言わざるをえません。

つまり、中国国内の運転免許で直接国際免許を取得するのは難しいため、日本で一度免許を取得し、それを足がかりに世界で運転できる権利を手に入れる——そんな裏技的な活用法が浸透しつつあるのです。

“ホテルの住所で免許取得”という盲点

さらに驚かされるのは、住民登録をしていなくても免許が取得できてしまう点。たとえば観光ビザで来日し、ホテルに宿泊。そのホテルから「一時帰国証明書」を発行してもらえば、ホテルの住所を使って免許の申請ができるのです。

当然、住民票のある日本人とは違い、流動的な滞在者が多いため、身元の追跡や本人確認が難しくなるという問題も。住所が定まらない相手に対して、国家資格ともいえる免許を与えるというのは軽率ともいえるかもしれません。

信頼失墜のリスクも

こうした制度の“甘さ”が悪用されることで、問題は日本国内にとどまりません。日本の免許は国際的に高い信頼性を誇ってきましたが、運転マナーや技術が不十分なドライバーが、日本の免許を使って海外で事故を起こすような事態が増えれば、その信用も揺らぎかねません。

たとえば、ある国で「日本の免許証を持っていた外国人が事故を起こした」と報じられれば、厳しい国際的な目が日本に向けられる可能性もあります。日本の制度設計が甘いせいで、他国に迷惑をかけるという事態は避けなければなりません。

国会でも問題視、制度見直しの動き

実際にこの問題は、2025年3月の衆議院予算委員会でも取り上げられました。国家公安委員会の坂井学委員長は、外免切替制度について「他国の制度も調査したうえで見直しを検討していく」と発言。今後、観光ビザでの申請制限や試験内容の見直しなどが議論される可能性があります。

制度自体は、海外からの優秀な人材や技能労働者の円滑な受け入れのためにも必要な仕組みですが、現行制度にはあまりにも“抜け道”が多すぎるという声が出ています。

日本の免許を守るために

日本の運転免許制度は、安全運転への高い意識や交通ルールの厳格な運用によって、世界でも高く評価されてきました。その信頼を守るためにも、制度の乱用を防ぐための対策は急務です。

観光客に免許を与えること自体が悪いのではなく、「誰に、どうやって与えるか」が問われているのです。今後、より信頼性のある制度にアップデートしていくことが、日本の国際的な信用を守る第一歩となるでしょう。

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