近年、全樹脂電池技術に関する機微情報が中国企業に流出した疑惑が浮上し、経済安全保障上の重大な問題として注目されています。全樹脂電池は、日本発の次世代リチウムイオン電池であり、その高い安全性と性能から、次世代潜水艦への搭載が検討されていました。しかし、技術情報の漏洩により、これらの計画や日本の技術的優位性が脅かされる可能性があります。
全樹脂電池の技術的特性と重要性
全樹脂電池は、電極材料に金属ではなく樹脂を使用することで、従来のリチウムイオン電池に比べて発火や爆発のリスクを大幅に低減させるとともに、容量を約2倍に増加させ、生産コストも半減できるとされています。これらの特性から、安全性や機能性が高く、特に次世代潜水艦への搭載が期待されていました。
APB社の経営権移転と情報漏洩の疑惑
全樹脂電池の商業化を目指して2018年に設立されたAPB社(福井県越前市)は、当初、大手化学メーカーである三洋化成工業が筆頭株主でした。しかし、2022年11月に三洋化成が保有株式を半導体設計事業を主力とするT社に売却し、T社がAPB社の筆頭株主となりました。その後、T社と中国企業との関係が深まる中で、APB社の技術情報が中国側に漏洩した疑惑が浮上しています。
具体的な情報漏洩の経緯
福島伸享衆院議員の指摘によれば、2023年3月、T社から派遣された取締役が主導し、中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)の技術者らがAPB社の工場を見学しました。その直前、T社取締役はファーウェイに対し、「全樹脂電池の素材に大変興味がある」「中国にも似たような研究があるが、量産化には至っていない」とメールで伝えていました。工場見学では、APB社の電池材料や生産設備が詳細に視察され、その後、T社取締役から中国側への技術情報に関する問い合わせが頻繁にあったとされています。
経済安全保障上の懸念と政府の対応
これらの情報漏洩が事実であれば、全樹脂電池技術が中国の潜水艦などに転用される可能性があり、日本の技術的優位性が失われるだけでなく、軍事バランスにも影響を及ぼす恐れがあります。福島議員は、T社の一連の行動について「故意に行われていた場合、スパイ行為に当たる」「経済安全保障上の重大な懸念がある」と指摘し、政府による徹底的な調査を求めています。これに対し、武藤容治経済産業相は、経済安全保障の観点から「調査したい」と述べ、事実関係の解明に向けた取り組みを示唆しています。
関連機関の関心と今後の課題
警察庁や公安調査庁も、この問題に強い関心を寄せており、必要に応じて法的措置や情報収集を行う姿勢を示しています。しかし、技術情報の漏洩は国際的な問題であり、証拠の収集や関係者の追及には時間がかかる可能性があります。今後、政府や関係機関がどのような対応を取るかが注目されます。
全樹脂電池技術の情報漏洩疑惑は、日本の経済安全保障にとって重大な問題です。技術の漏洩が確認されれば、日本の技術的優位性や軍事バランスに深刻な影響を及ぼす可能性があります。政府や関係機関は、事実関係の徹底的な調査と必要な対策を講じることが求められます。
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