鳥取沖で「燃える氷」メタンハイドレート採取に成功 国産天然ガス資源への期待と2030年商業化の課題

鳥取沖で燃える氷を採取 国産エネルギーの新たな一歩

日本海の鳥取県沖で、新しいエネルギー資源として注目されている「メタンハイドレート」が採取された。調査を行ったのは千葉大学や鳥取大学をはじめとする国内九つの研究機関の合同チームで、7月31日から8月6日にかけて調査船を使って海底を掘り下げ、白い氷のような塊を取り出すことに成功した。

採取地点は鳥取県沖およそ145キロ、隠岐諸島の東北約60キロにある水深700メートルの海底だ。研究者たちは長さ6メートルのステンレス製の筒「ピストンコアラー」を海底に突き刺し、堆積物を回収。その結果、海底から7〜8センチ下の層に白く固まったメタンハイドレートが確認された。同時に、分解によってできた炭酸塩も採取され、存在が確実であることが裏付けられた。

これまで日本海側では、新潟県沖や秋田県沖でメタンハイドレートが採取されてきた。鳥取沖でも「ガスチムニー」と呼ばれる特殊な地形が多数見つかっており、存在が予測されていたが、実際に塊状のものを掘り出したのは今回が初めてだ。調査を率いた千葉大学の戸丸仁准教授は「次世代資源としての可能性が一段と高まった」と語り、地元鳥取県にとっても大きな成果となった。

メタンハイドレートとは何か 氷に閉じ込められた天然ガス

メタンハイドレートは、水とメタンガスが高い水圧と低い温度の環境下で結晶のように固まった物質である。見た目は普通の氷と変わらないが、火を近づけると燃えるため「燃える氷」と呼ばれる。一リットルのメタンハイドレートからは160リットル以上のメタンガスが取り出せるとされており、極めて効率の高いエネルギー源だ。

日本では、太平洋側に多い「間隙充填型」と呼ばれる堆積物に詰まったタイプと、日本海側に多い「浅層型」や「ガスチムニー型」と呼ばれる海底近くに固まったタイプの二種類が存在することがわかっている。今回鳥取沖で採取されたのは後者であり、比較的浅い場所にあることから採取が現実的だと考えられている。

この資源の大きな魅力は、日本のエネルギー自給に直結する点だ。日本はエネルギー資源のほとんどを輸入に頼っている。石油は中東、天然ガスはオーストラリアやロシア、石炭はインドネシアなどから運ばれており、国際情勢に左右されやすい。もし国内の海底から安定してメタンハイドレートを採取できれば、国産資源としてエネルギー安全保障を高められる。

期待と同時に突きつけられる課題

ただし、メタンハイドレートの利用には多くの課題がある。第一はコストの問題だ。採取や運搬には高度な技術と大規模な装置が必要であり、現時点では輸入天然ガスに比べて価格が高くなる。過去に愛知県や三重県沖で実施された減圧法による採掘実験でも、技術的には成功したが安定的な長期運用には至らなかった。商業化するには、コストを大幅に下げる技術革新が欠かせない。

第二は環境へのリスクだ。メタンは二酸化炭素の20倍以上の温室効果を持つとされ、大量に漏れ出すと地球温暖化を加速させる。さらに、海底地層の崩壊による地滑りや津波の危険も指摘されている。これらを防ぐためには、環境影響を最小限に抑える技術や制度づくりが必要だ。

第三は法制度や国際ルールの整備である。海底資源の採掘には国の許可や環境規制が欠かせず、事故時の責任や補償の仕組みも議論しなければならない。メタンハイドレートは夢の資源と呼ばれる一方で、現実的に利用するには「安全性」「採算性」「環境保全」の三つを同時にクリアする必要がある。

未来のエネルギー戦略にどう位置づけるか

日本政府は2030年の商業利用を目標に掲げている。実現できれば、輸入依存を減らし、国内産業に新たな雇用を生み出す可能性がある。鳥取県の平井伸治知事はオンラインでの報告を受け、「長年夢見ていたものが現実になった。国の支援を求めるとともに、県も全力で協力したい」と強調した。

今後の調査では、鳥取沖を含む日本海沿岸での分布状況や資源量を正確に見積もることが急務となる。その上で、どのような技術を使えば効率よくガスを取り出せるか、安全に運搬できるかを検証していく必要がある。同時に、再生可能エネルギーや水素エネルギーなどとの組み合わせをどう進めるかも、日本全体のエネルギー政策を考える上で大きな課題だ。

メタンハイドレートは「夢の資源」と言われながらも、まだ実用化には至っていない。しかし、今回の鳥取沖での成功は確実に一歩を進めた。国産エネルギーをめぐる議論はこれからさらに熱を帯び、エネルギー政策全体を見直す契機になるだろう。

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