
英MI5が議会に異例の警告――SNS経由で近づく中国の影。日本も対岸の火事ではない
英国の治安機関 MI5 が、議会関係者に向けて「中国によるスパイ獲得の試み」を名指しで警告した。SNS、とりわけ仕事関係の交流が中心となる LinkedIn を通じ、議員や議会スタッフに“協力関係”を持ちかけるケースが確認されているという。
正直に言えば、ここまで具体的な注意喚起はかなり異例だ。MI5 が警告文書のなかで明記したのは、中国国家安全省(MSS)とつながりがあるとされる中国人女性 2 名。いずれも「ヘッドハンター」「コンサルタント」を名乗り、英国の議員や政策関係者に接触していた。最初は無難な情報提供や“意見交換”を持ちかけ、時間をかけて信頼関係を築き、将来的に情報提供者へと誘導する狙いがあるとされる。
一見すると、ただのビジネス交流のメッセージに見える。しかし今回のMI5の説明によれば、中国側はごく小さな情報でも細かく集め、パズルのピースのように組み合わせることで全体像をつかもうとしている。議員の予定、関心、関係団体、スタッフの動き――そうした“価値があるかどうか判断が難しい情報”ほど、諜報活動の視点では重宝される。
下院で報告を行ったジャービス安全保障担当閣外相は、「これは英国の民主政治そのものに対する挑戦だ」と強調した。中国製監視機器の撤去や暗号技術の強化など、政府は対策の加速を打ち出している。
もちろん中国大使館は強く反発し、「完全な作り話だ」と主張する。だが、英国では今年、中国のためにスパイ活動をしたとして起訴された元議会調査官らの事件が、証拠不十分で取り下げられるという経緯もあった。こうした事例が議会内に疑心暗鬼を生み、「情報機関が本来示すべき危機感と、政権側の姿勢が噛み合っていない」という政治的な批判も噴き出している。
日本は本当に“無関係”と言えるのか
英国の話だと片づけたいところだが、残念ながら日本も他人事ではない。
日本の国会にも、政策判断や言動が妙に中国寄りだと指摘されてきた議員が確かに存在する。“親中派”というひとくくりで語られることも多いが、問題は中国寄りかどうかではなく「その姿勢が自発なのか、それとも外部の働きかけで形づくられているのか」という点だ。
今回の MI5 の警告は、まさにその“外部からの働きかけ”の具体例を示している。SNS やビジネス交流の仮面をかぶり、長期的に議員の周辺に入り込み、ゆっくりと距離を詰める。日本の政治家や自治体関係者も、同じようなアプローチを受けていないと誰が言い切れるだろうか。
とくに日本は、英国ほどスパイ対策の法整備が進んでいない。情報機関も限定的で、政治家自身の危機管理意識に大きく依存しているのが現状だ。中国との経済関係が深い議員であればあるほど、そこに生まれる“政治的盲点”は少なくない。
正直に言って、日本の脇の甘さは今まで繰り返し指摘されてきたが、それでも抜本的な改善は進んでいない。英国が警鐘を鳴らしている今こそ、日本の政治家も本気で「自分は狙われない」という楽観に別れを告げるべきだ。
外国による働きかけは、派手なスパイ映画のように動くわけではない。たった一通のメッセージ、たった一回の会食、たった一度の講演依頼――その積み重ねが国家レベルの影響力につながる。
英国では、すでにその現実が可視化された。
日本はどうか。気づいたときには手遅れ、という展開だけは避けたい。




















