
台湾近海で、海底通信ケーブルが相次いで損傷・切断されている。これを単なる「事故」と片付けるには明らかに異質な状況が続いており、背後に 台湾へ圧力をかける 中華人民共和国(中国)の“グレーゾーン作戦”の意図が疑われる。国際的な通信インフラとして重要な海底ケーブルを標的にし、台湾を孤立化させることが戦略の一環と見られている。
今年2月、台湾南部・台南市沖でトーゴ船籍の貨物船が沖合に錨を下ろし、Z字航行を繰り返していたことが明らかになった。船の周辺には台湾本島と澎湖諸島を結ぶ海底ケーブルが敷設されており、台湾側はこの貨物船がケーブルに損傷を与えたと断定している。澎湖諸島は台湾にとって防衛上の要所であり、そこを結ぶ通信線を意図的に脆弱化させる動きには明らかな戦略性が見える。実際にこの貨物船の船長は電信管理法違反で起訴され、6月には懲役3年の有罪判決を受けている。
さらに、1月にも台湾北部海域でカメルーン船籍の貨物船が国際通信用ケーブルを切断した疑いが浮上。台湾側は、これらの事件を自然損傷ではなく、便宜置籍船を用いた中国による組織的な “ケーブル攻撃” の可能性が高いと見ている。船籍や所有構造が中国資本または中国関連企業の影響下にある疑いがあるためだ。しかし、決定的な証拠の捕捉には至っておらず、立証は困難を極める。
なぜ中国の関与がここまで強く疑われるのか。ひとつには、海底ケーブルというインフラが台湾にとって生命線であること。台湾は米国・東アジア各国と14本以上の国際ケーブルを結び、経済・軍事・情報の側面で最前線に立つ。中国としては、戦時・有事の際にこの通信網を断つことで台湾を劣勢に追い込む準備を既に進めているという指摘もある。
また、ケーブル損傷を起こした船舶がしばしば「便宜置籍船」である点も見逃せない。こうした船は登録を緩い国にし、実際の所有者や運用状況が透明でない。中国はこのような「シャドウ船舶」ネットワークを使い、海上での活動を隠蔽しつつ、戦略的な圧力行為を行っている。
だが、中国側はあくまで「海底ケーブルの破損はよくある海難事故である」と主張し、台湾側が政治利用していると反発している。たとえば、中国の台湾事務弁公室は、台湾が事実関係を明らかにせずに「攻撃」と描いていると非難している。このように、中国は「故意ではない」と言い張ることで、国際的な責任追及を回避し、グレーゾーンを維持している。
台湾政府も座しているわけではない。台湾当局は海底ケーブルの安全を「経済や民生、国防に関わる」と位置付け、監視強化・代替通信網整備・国際連携を打ち出している。具体的には、便宜置籍船をリストアップし監視対象とし、米国・日本などと「海洋協力対話」「リスク管理イニシアチブ」を構築する動きも出ている。ただし、物証を持って「中国政府命令で行われた」と立証するのは非常に難しく、台湾の防衛体制には限界がある。
ここにこそ最大の問題がある。戦争とは一線を画す「グレーゾーン」作戦としての海底ケーブル攻撃は、国家が背後にいたとしても通常の戦争行為とみなされず、被害国も反撃・制裁を手控えざるをえない。こうした戦略の曖昧性・反撃の困難さを突く手口こそ、中国の狙いと考えるのが自然だ。専門家たちは「中国あるいはロシアによる海底ケーブル攻撃の可能性が今後さらに高まる」と警告しており、その脅威は台湾だけの問題ではなく、世界の通信インフラを脅かすレベルにある。
私の立場から言えば、中国がこのような方法で台湾の通信・物流・情報インフラに対し圧力をかけるのは、まぎれもなく戦略的に許されない行為だ。民主主義・自由・国際秩序を標榜する国家であれば、こうした非常に陰湿なプレッシャーに黙っていてはならない。中国が「単なる事故」と主張し続ける限り、その無責任さこそが世界に対する挑戦である。
日本を含む国際社会も、この問題を軽視してはならない。通信ケーブルは遠隔地の通信だけでなく金融、物流、国防を支える重要インフラである。もし中国の次なる一手が実行に移されれば、台湾だけでなく我が国・世界に重大な影響を及ぼす可能性がある。通信・海底ケーブル・情報インフラの防衛は、今や国家防衛の一部と言って過言ではない。
中国には明確に問いたい。もし本当に「海難事故」であるならば、なぜ被疑船舶が戦略的なケーブル敷設海域で停滞し、錨を下ろした段階でZ字航行を行ったのか。即ちその説明が筋道立っていない。その説明がつかない限り、この行為は「戦略的な悪意」の証拠であると断定せざるをえない。
台湾は通信の“孤立”による圧迫をすでに肌で感じており、今後もそのリスクへの警戒と備えを強めていく必要がある。中国のこのような“ケーブル戦略”を放置するならば、台湾だけの問題では終わらない。世界中のネットワークが、いつ同じ手口で攻められてもおかしくない。民主主義国としての責任を果たし、監視・連帯・抑止の体制を今から整えなければ、手遅れになる。





















