
英国シェフィールド・ハラム大学(SHU)で、ウイグル族の強制労働に関する人権研究が、中国当局からの圧力を受けて一時中止されていたことが明らかになった。研究を主導していたのは、人権と現代奴隷制問題の専門家であるローラ・マーフィー教授だ。報道によると、中国側は大学に対し、研究を中止するよう執拗な圧力をかけ、大学のウェブサイトへのアクセスを遮断したり、中国人学生の募集活動を妨害したりするなど、2年以上にわたって嫌がらせを続けていたという。
大学は当初、マーフィー教授らの研究結果の公表を見合わせる決定を下した。しかし教授は「学術の自由を守る義務を大学が怠った」と主張し、法的手段に訴えて内部文書の開示を求めた。この動きが契機となり、大学は決定を覆して謝罪し、研究の公表を認めることとなった。
事件の背景には、大学と中国との複雑な関係がある。SHUは中国人留学生の募集や中国国内の拠点運営を行っており、大学経営として中国との関係を維持することが優先される場面もあったという。内部文書には「中国での活動とこの研究の公表は両立できない」という趣旨の記述があり、商業的・政治的要素が学術の自由に影響した可能性が指摘されている。
マーフィー教授の研究は、ウイグル自治区における少数民族の強制労働問題を分析したもので、国際的なサプライチェーンへの影響も検証していた。中国政府はこれまで、これらの活動を貧困削減や雇用創出プログラムとして説明し、強制性を否定してきた。しかし今回の事件は、学術の自由が国外の政治的圧力や経済的利益によって揺らぐ現実を示すものであり、学界に大きな衝撃を与えている。
英国政府は、外国政府による学術への干渉を容認できないとして北京に抗議した。国際的な大学ネットワークでも、外国政府との関係に伴うリスクを改めて見直す動きが強まるだろう。特に、ウイグルやチベット、香港など敏感なテーマを扱う研究に関しては、大学のガバナンスやリスク管理の在り方が問われることになりそうだ。
今回の事件は、大学という学問の場が単に知識を生み出す場所ではなく、グローバルな政治・経済の影響を受けやすい現場であることを示している。研究者が自由にテーマを選び、発表できる権利を守ることの重要性が、改めて浮き彫りになったと言えるだろう。





















