
【花粉症対策に革命】スギ花粉9割減も夢じゃない?1日2,320億円の損失を救う“あの技術”
春になると、マスクに目薬、鼻炎薬が手放せない。くしゃみ、鼻水、目のかゆみ…そう、花粉症の季節だ。今や日本人の約3人に1人が悩まされているとも言われ、その影響は個人の健康だけにとどまらない。
【1日2,320億円】花粉症による「見えない損失」
パナソニックの調査によれば、花粉症による経済損失はなんと1日あたり2,320億円にもなるという。これは、目のかゆみや鼻詰まりで集中力が落ち、生産性が下がることで、企業や社会全体がこうむる“目に見えない”損失だ。
しかも2025年春のスギ花粉は、特に九州から関西にかけて非常に多く、関東や東北南部でも前シーズンより多いと予測されている。3月には主要都市で花粉のピークを迎え、その後ヒノキ花粉が4月上旬まで続く見通しだ。花粉症患者にとっては、長い闘いになる。
【伐っても追いつかない】花粉の少ないスギ苗だけでは解決しないワケ
政府も手をこまねいているわけではない。花粉の少ないスギ苗の生産を拡大し、2030年代には現在の9割以上をそうした苗に置き換える計画だ。細胞増殖技術を使って苗木を大量に増やす研究も進行中だという。
しかし、現実はそう簡単ではない。スギ林を伐採して新しい苗を植えるには、多くの人手とお金が必要になる。林業従事者は全国で約4万4,000人。彼ら1人が抱える面積は平均100ha。1haにはおよそ1,000本のスギが植えられており、伐採費用は1ヶ所あたり数百万円にもなる。
加えて、伐った木材に用途がなければ山に放置され、土砂崩れのリスクも高まる。スギの植え替えによる花粉対策には限界があるのが現状だ。
【スギ雄花を“枯らす”!】東京農大の「パルカット」に注目集まる
そんな中、根本から花粉を「飛ばさせない」新しいアプローチに注目が集まっている。開発したのは、東京農業大学の小塩海平教授。植物生理学の専門家で、長年スギ花粉と向き合ってきた。
小塩教授のアイデアはシンプルだ。花粉を出すのはスギの「雄花」なので、それを枯らしてしまえば花粉は飛ばない。研究の結果、食品添加物にも使われる植物油由来の界面活性剤を雄花に噴霧すると、花が枯れることを突き止めた。
この技術は「パルカット」と名付けられ、2023年には栃木県で実証実験も行われた。有人ヘリで山林に散布したところ、9割以上の雄花が枯死し、花粉の飛散が大幅に抑えられたという。
【今後の課題は?】ドローン散布や費用対効果に期待
とはいえ、実用化にはまだ壁がある。全国のスギ林に薬剤を撒くには、ヘリの数も人手もコストも足りない。今後はドローンなど無人機の活用や、薬剤の散布効率を高める工夫が必要だ。
現在、小塩教授は「全国の雄花の半分を枯らす」ことを目標に研究を続けており、林野庁の支援のもと、より安価で安定的な運用を目指している。
【花粉症のない社会へ】健康、医療費、生産性すべてに好影響
この技術が広く実用化されれば、年間数兆円の経済損失を防ぎ、多くの人の生活の質が向上するだろう。医療費の削減だけでなく、企業の生産性向上にも直結する。
花粉症に悩まされない春が来る——それは夢物語ではなく、科学と政策の力で実現可能な未来だ。小塩教授の「パルカット」が、その鍵を握っているのかもしれない。