
トランプ政権、NVIDIAの中国向けAIチップを全面輸出禁止 日本の半導体産業にも衝撃
米国のトランプ前大統領が再び動きを見せた。15日、トランプ政権は米半導体大手NVIDIAによる中国向けAIチップ「H20」の輸出を事実上すべて禁止する方針を発表した。表向きは「国家安全保障上の懸念」だが、米中間の技術冷戦がいよいよ本格化した形だ。
NVIDIAはこのH20チップを、従来の米政府の規制基準に合わせて設計し、中国市場での合法な販売を想定していた。にもかかわらず、今回の判断によって中国への供給が封じられる形となり、NVIDIAは最大55億ドル(約8,300億円)規模の損失を見込むと発表。株価も即座に6%以上下落した。
AIチップ全面禁止、その衝撃
H20はAI関連の処理能力に優れたGPUで、AI開発が急伸する中国での需要も高かった。だが米国は、このチップが中国の軍事研究や国家主導のスーパーコンピューターに転用される可能性を懸念。「たとえ制限モデルであってもリスクがある」として、例外なく特別許可制に切り替えた。
業界関係者からは「骨抜きにされたH20ですらアウトなら、事実上の全面禁止だ」との声も漏れる。
アジア市場にも広がる余波
この決定を受けて、アジアの金融市場も即座に反応。香港ハンセン指数は1.6%下落し、日本の東京市場でも半導体関連株が軒並み値を下げた。一方で中国本土では「国産化」を期待して一部の半導体銘柄が急騰するなど、地域間で明暗が分かれる結果となった。
特に影響が大きいのは、日本の半導体製造装置やメモリ関連企業だ。東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった製造装置メーカーは、中国との取引縮小を余儀なくされる恐れがある。また、キオクシアやマイクロンの日本法人も、AI需要に支えられたメモリ販売が鈍化する可能性がある。
日本企業に求められる対応
トランプ前政権はこれまで以上に強硬な対中路線を打ち出しており、今回の措置はその一環とみられている。これに対し中国は、対抗措置としてレアアースの輸出規制を強化するなどのカードを準備しているとされ、報復合戦の懸念も高まっている。
こうした中、日本政府や経済産業省も国内半導体産業の強化に本腰を入れ始めている。熊本のTSMC工場やラピダスなど、国産回帰の流れに拍車がかかる形だ。企業側でも、リスク回避のため中国市場への依存度を下げ、インドや東南アジアへの輸出シフトを進める動きが見られる。
「テック冷戦」時代、日本の立ち位置は?
技術覇権を巡る米中の争いは、もはや単なる関税や経済圧力の域を超えた「テック冷戦」と呼べる段階に突入している。その波は、日本のような同盟国にも確実に押し寄せている。
NVIDIAの中国向けチップ全面禁止という今回の判断は、単なる一企業の問題にとどまらない。日本企業にとっても、今後の市場戦略や研究開発の方向性を根本から見直すきっかけとなるだろう。
いま求められるのは、米中どちらにも過度に依存せず、自律的に技術と産業を育てる「第3の道」だ。今回の通商政策の大波を、日本がどう乗りこなしていくのか。試練の時が、またひとつやってきた。
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