
米国のドナルド・トランプ前大統領は14日、半導体やスマートフォンなど中国製電子機器の輸入について「国家安全保障上の観点から調査を始める」とSNS上で発表した。先週、政権側がこれらの製品を対中関税リストから一時的に外したと報じられていたが、一転してトランプ氏自らが否定した形だ。米中テック摩擦が再び激しさを増している。
スマホ・PC除外の報道に「ノー」 トランプ氏が関税強化を示唆
トランプ氏は自身のSNS「Truth Social」に、「スマートフォンやコンピュータなどの電子製品は、別の関税の“バケツ”に移るだけだ」と投稿。さらに、「国家安全保障関税調査で、半導体と電子機器のサプライチェーン全体を調査する」と明言した。
この発言により、先週ホワイトハウスが発表した「スマホ・PCは関税の対象から外れる」との見通しは事実上否定された格好だ。
商務長官「2カ月以内に新たな関税」 S&Pも反応
トランプ政権で商務長官を務めるハワード・ルトニック氏も同日、ABCテレビの『This Week』に出演し、「中国からの重要な技術製品は、今後1〜2カ月以内に半導体とともに新たな関税対象となる」と発言。関税の対象となる製品群には、スマートフォン、ノートパソコン、ディスプレイドライバ、DRAMチップ、メモリーデバイスなどが含まれるという。
このニュースを受け、ウォール街では2020年のパンデミック以来の株価乱高下が再び起きている。S&P500種株価指数は、トランプ氏が1月20日に再登場して以来、すでに10%以上の下落を記録している。
中国は報復措置で125%の関税 対話の兆しは薄く
一方、中国も黙ってはいない。北京は金曜日、米国からの輸入品20品目に対する関税を125%に引き上げた。対象にはコンピュータ、ノートPC、ディスクドライブ、半導体、メモリーチップ、フラットパネルディスプレイなど、米中の対立の最前線にある技術製品が並ぶ。
中国商務部は「虎の首の鈴を外せるのは、それをつけた者だけだ」と意味深なコメントを出し、米国側の態度次第で対応が変わることを示唆した。
米企業には痛手 アップル・デルなど直撃
この新たな関税の波は、米国内のハイテク企業にとって大きな痛手だ。アップル、デル・テクノロジーズ、HPなどは、中国からの部品・製品供給に依存しており、関税の引き上げは即座にコスト増に直結する。
特にアップルは、中国での生産体制が依然として強固であり、仮に関税が上乗せされれば、製品価格に転嫁せざるを得ない。消費者物価の上昇も懸念されている。
ビル・アックマン氏「90日猶予を」 投資家も苦言
こうした動きに対して、著名投資家であるビル・アックマン氏はSNSで、トランプ氏に90日間の関税停止を呼びかけた。アックマン氏は「もし90日間関税を一時的に10%に抑えれば、米企業が混乱なくサプライチェーンを中国外へ移転する猶予が得られる」と指摘。トランプ氏に対しても「目的達成には十分だ」と柔軟な対応を求めた。
専門家「関税は政治的武器」 安全保障の線引きに懸念も
専門家の間では、今回の「国家安全保障関税」への懸念も広がっている。ワシントンの政策研究所ブルッキングス研究所のアナリストは「安全保障を理由にすれば、あらゆる貿易制限が可能になる。だが、濫用すればWTOルール違反になるおそれもある」と話す。
また、バイデン政権が国際協調を重視していたのに対し、トランプ氏は再び「アメリカ・ファースト」に回帰する姿勢を鮮明にしている。11月の大統領選を前に、経済ナショナリズムを強調する狙いがあるとみられている。
今後の展望:エスカレートする“関税戦争”
今回の動きは、単なる「貿易戦争」ではなく、ハイテクと国家安全保障が絡む“戦略的衝突”の様相を呈している。米中双方が一歩も引かない構えを見せる中で、国際社会には警戒感が広がっている。
世界経済がサプライチェーンの再構築を迫られるなか、次に打たれる一手がどこへ向かうのか──2025年の米中関係を占う試金石となりそうだ。
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