
トランプ関税の余波、長期金利が世界同時に急騰
米国の国債市場が今、異常なまでの揺れを見せている。とくに30年債では利回りが一時、前日比で25ベーシスポイント(bp)も急騰し、2023年11月以来の水準に。わずか数日で50bp超の上昇を記録するという激しい動きとなった。
その影響はアメリカ国内にとどまらず、オーストラリア、ニュージーランド、日本、さらにはフランスなど、世界各国で国債売りが連鎖し、長期金利が一斉に上昇している。
背景にあるのは“安全資産”の信頼揺らぎ
これまで米国債は「有事の資産」として、リスクを避けたい投資家の避難先とされてきた。しかし今回は事情が違う。
トランプ前大統領による“相互関税”の再発動が物価の先高観を呼び起こし、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ余地が狭まるとの見方が広がった。その結果、米国債の魅力が相対的に低下。売りが売りを呼ぶ形で、市場全体がヒートアップしている。
中国の「米国債売り観測」が火に油
加えて、市場でささやかれているのが中国の動きだ。
トランプ政権が打ち出した新たな関税措置への“報復”として、中国が米国債を売却している可能性があるという見方が投資家の間で強まっている。
実際、公式データでも中国と日本の米国債保有残高はここ数年で減少傾向にある。とはいえ、こうした売却がいつ、どれほどの規模で行われたのかは、リアルタイムで表に出ることはほぼない。
「米国債はもはや絶対的な安全資産とは言い切れない」――そう考える投資家が増えれば増えるほど、市場はさらに神経質になっていくだろう。
市場関係者の声「氷彫刻が山火事に…」
「これはもう“米国債の投げ売り”と言っていい状況だ」。
そう語るのは、ヘッジファンド「ブルー・エッジ・アドバイザーズ」のカルビン・ヤオ氏だ。彼は20〜30年物の米国債先物を次々と手放しており、「山火事の中で氷の彫刻を作っているようなもの。1秒前までは大丈夫に見えたものが、すでに溶けてなくなっている」と、今の相場を生々しく語る。
トランプ政権の関税政策が引き金に
4月9日、トランプ氏は「相互関税」の発動に踏み切った。対象は約60カ国・地域。とくに中国には最大104%という高率関税が科され、事実上の経済制裁に近い。
これにより、通商摩擦は一段と激化。投資家の警戒感が一気に高まった。世界経済へのダメージも懸念され、各国中央銀行も対応を迫られている。
利回り上昇がもたらす実体経済への影響
米国の10年債利回りも4.5%近くに達し、これは2020年以来の高水準。住宅ローン金利や企業の借入コストの上昇につながり、家計や企業の支出を抑える方向に作用する。
つまり、今回の国債売りは金融市場の問題にとどまらず、実体経済にもジワジワと波紋を広げつつあるのだ。
今後の焦点はFRBと米財務省の対応
市場は今、米連邦準備制度理事会(FRB)がどのような舵を切るかを注視している。インフレ懸念が再燃する中での利下げは困難で、かといって金利が上がり続ければ経済の足かせにもなる。
また、財務省が市場安定化に向けてどのようなシグナルを出すかもカギを握る。
米国債は「最後の砦」たり得るのか
世界中の中央銀行や年金基金、個人投資家が米国債に寄せてきた信頼が、いま試されている。中国などが今後さらに保有を減らせば、資本の大きな流れが変わる可能性もある。
市場が本格的に落ち着きを取り戻すには、単なる金融政策だけでなく、米中を中心とする外交・経済政策の安定化も不可欠だ。
“安全資産”としての米国債――その称号が色あせつつあるのか。それとも、今回もまた嵐を乗り越えるのか。いま、その分岐点に立っている。
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