使えない電気、払わされる私たち――再エネが抱える“不都合な現実”

九州太陽光発電過剰

最近、「電気が余っているから止めました」なんて話、聞いたことはありますか?

実は今、九州では太陽光などの再生可能エネルギーで発電された電気が、“もったいない”形で止められているのです。その量、2023年度で約12億9,000万キロワット時。これは30万世帯が1年間に使う電気とほぼ同じ量です。

しかもその電気、ただ無駄になるだけじゃなく、私たちの電気代に関係しているとしたら……。ちょっと他人事では済まされません。

電気が「余る」ってどういうこと?

私たちが普段何気なく使っている電気。実は、「発電したらすぐに使う」必要があります。電気って基本的に“貯めておく”ことが難しいんです。

だから、例えば晴れた春の日、太陽光発電がガンガン発電していても、みんなが外出していて電気を使っていなければ……余ってしまう。そのままだと送電網に負担がかかってしまうので、電力会社は発電所に「今日はもう止めてください」と指示を出します。これが「出力制御」です。

一見、うまく調整されているようにも見えますが、ここに落とし穴があります。

せっかくの電気、なぜ使えない?

九州は日差しが強く、広い土地もあるため、太陽光発電の設置がどんどん進みました。九州電力の管内だけで、全国の2割もの太陽光設備があるほどです。

でも、その電気を「使う場所」が足りていません。産業が集まる大都市や人口の多い地域は本州側にあり、九州と本州をつなぐ送電線(関門連系線)にも容量の限界があります。発電しても、送り先がない。だから、泣く泣く止める――というわけです。

私たちの電気代にも影響が

ここが一番気になるところかもしれません。

太陽光発電でつくられた電気は、国の制度によって「一定の価格で電力会社が買い取る」と決められています(FIT制度)。この買い取り費用は「再エネ賦課金」として、私たち全員の電気代に上乗せされているのです。

つまり、発電されたけど使われなかった“無駄な電気”に対しても、私たちは間接的にお金を払っていることになります。なんだか納得しづらいですよね?

「節電してるのに電気代は上がる」「再エネに期待してたのに無駄にしてる」――そんな不満の声が出てくるのも無理はありません。

「ムダ」にしない工夫、進んではいるけど…

もちろん、電力会社や政府も対策を始めています。

たとえば、九州電力では「昼特プラン」という料金メニューを用意。日中の電気代を安くして、洗濯や調理、EV充電などを昼間に集中させれば、余った電気を“使って”もらえるという仕組みです。

また、家庭用蓄電池や電気自動車を使って、日中に貯めた電気を夜使うというライフスタイルも注目されています。とはいえ、どちらもコストがネック。多くの家庭にとっては「いい話だけど現実的じゃない」状況です。

一方で、全国的な送電網の整備も進められていますが、これもすぐには効果が出ません。

「エコ」は良い。でも“行き過ぎ”は困る

地球にやさしい、温暖化対策になる、エネルギー自給率が上がる――再エネにはたしかに大きなメリットがあります。導入を否定するものではありません。

でも、「とにかく増やせばいい」という方針が結果として無駄を生み、そしてその負担が私たちに回ってくるようでは、本末転倒です。

再エネが“理想”で終わらないためには、きちんと使いきれる体制を整えること、そしてどれくらい導入すべきかを冷静に見極める必要があります。

「節電してるのに電気代が高い」その背景に…

私たちがいくら家電を省エネタイプに変えたり、こまめにスイッチを切ったりしても、根本的な制度やインフラが非効率では、努力の効果も限られます。

「再エネで作った電気を使えるようにしてほしい」
「無駄な発電にお金を払いたくない」

こんな素朴な疑問や不満こそ、これからのエネルギー政策を考えるうえで大事にされるべき声です。

太陽の恵みを、ちゃんと私たちの暮らしの力に変えるために。いまこそ、軌道修正のときなのかもしれません。

電気が無駄に…? 九州で再エネ捨てる「出力制御」急増、なぜ

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