
トランプ前大統領が再び掲げた“相互関税”構想に、根本的な誤りが含まれていた可能性が出てきた。米国の保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)」が再試算したところ、実際の税率は発表値の4分の1ほどにすぎず、誤った計算式に基づいて政策が設計されていた疑いがあるという。
とくに注目を集めているのが、日本への関税率。トランプ氏は「日本には24%を課す」と強調していたが、AEIによると「10%の一律関税に留まるのが正しい」という。米政府が発表した数値とは大きくかけ離れており、誤算の影響は一国だけでなく、全世界の貿易政策に波紋を広げかねない。
AEIが計算式の“初歩的ミス”を指摘
誤りの背景にあるのは、米通商代表部(USTR)が公表した関税計算式だ。式には、輸出額や貿易赤字、輸入需要の価格弾力性、そして輸入価格の弾力性といった経済指標が用いられている。ところがAEIの研究者は、この計算式の一部に“代入ミス”があると指摘する。
たとえば、USTRは「輸入価格の弾力性」を0.25としていたが、実際には0.945がより正確な値とされており、ここで大きなズレが生じているという。仮に誤った係数を用いれば、当然ながら導き出される関税率も現実からかけ離れたものになる。
AEIがこれを正しく補正して再計算したところ、日本だけでなく他の主要貿易相手国に対する関税率も軒並み下がり、多くが10%程度にとどまるとの結果が出た。
“関税爆弾”に世界が揺れた週、市場も動揺
今回の再試算が発表されたのは、米市場が不安定な動きを見せていたタイミングと重なる。実際、S&P500は先週9.1%も下落。これは新型コロナのパンデミック時以来、最大級の週間下落率だ。
背景には、トランプ氏が4月2日に「米国の解放の日」と銘打って打ち出した新関税政策がある。この政策では、すべての国からの輸入品に対し最低10%の一律関税を課しつつ、「不公正な貿易慣行を是正する」として、日本には24%、中国には34%、EUには20%の上乗せ関税を課すとされた。
金融市場は「世界的な関税戦争の再来か」と警戒感を強め、一時リスクオフの動きが加速した。しかし、その根拠となった税率自体が、そもそも「根拠薄弱」だったとなれば、市場の混乱は“見せかけ”に過ぎなかったとも言える。
日本政府も困惑「理解しがたい」
当然ながら、関税対象となった国々からは強い反発の声が上がっている。日本政府は公式には慎重な姿勢をとっているが、水面下では「極めて遺憾」との受け止めが広がる。
江藤拓農林水産相は、「(日本の)農産品や工業製品に高い関税が課されているとの理解は事実と異なる」と述べ、トランプ氏が示した“相互性”には疑問を呈した。実際、日本は多くの米国製品、特に自動車部品などに対しすでにゼロ関税を適用しているケースが少なくない。
EUや中国も黙ってはいない。欧州委員会は、米国の一方的な措置に対抗するため「全ての選択肢を検討する」と表明し、中国は「WTOルールに反する」として報復関税をほのめかしている。貿易摩擦が再燃すれば、世界経済への打撃は避けられない。
経済界からも冷ややかな視線
米国内でも、経済界の反応は冷淡だ。全米商工会議所は「この関税は米企業と消費者にとって“税”であり、結局は自らの首を絞めることになる」として、速やかな見直しを要求。アップルやウォルマートといった大手企業も、影響を懸念する声を相次いで上げている。
AEIの報告書では、「関税というのは精密機器のように慎重に扱うべき政策だ。理論が間違っていれば、現実の影響は何倍にも増幅される」と警鐘を鳴らしている。
“ポスト・グローバリズム”時代の選択
今回の誤算は、単なる数字のミスでは済まされない。トランプ前大統領が掲げる「米国第一主義」は、グローバル経済の大きな流れに逆行するものであり、計算式の誤りは、その象徴的な“ほころび”とも言える。
確かに、米国の貿易赤字は長年の課題だ。しかし、その是正策として関税を用いるなら、経済合理性と国際信頼の両立が求められる。事実と異なる数字に基づいた施策では、信頼は得られないどころか、米国の立場すら危うくなりかねない。
各国が“ポスト・グローバリズム”の在り方を模索する今、米国の選択が再び問われている。
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