
日本の温泉資源、オーバーツーリズムによる危機的状況
日本各地に点在する約2万7,000の温泉地。その多くは長い歴史と豊かな自然に支えられ、国内外の観光客に癒しを提供してきました。しかし、近年の観光客増加、特に外国人旅行者の急増により、一部の温泉地では源泉水位の低下や温泉資源の枯渇といった深刻な問題が浮上しています。
嬉野市の現状
佐賀県嬉野市は、その名の通り「嬉野温泉」で知られ、30軒以上のホテルや旅館が立ち並ぶ人気の温泉地です。同市の人口は約25,000人で、これまでは主に国内からの旅行客が訪れていました。しかし、近年では外国人旅行者の増加により、温泉の需要が急増しています。その結果、ホテルや旅館での温泉水の使用量が増加し、供給に支障をきたす事態となっています。
NHKの報道によれば、昨年の平均源泉水位は一時39.6メートルまで低下し、4年前の50メートルから20%の減少を示しています。これに対し、村上大祐市長は「源泉は引き続き持続可能」と強調しつつも、ホテルや旅館に対し、客室内の内湯の深夜利用制限を呼びかけています。これは、温泉水の過剰な使用を抑制し、持続可能な利用を促すための措置です。
共同浴場の利用状況
嬉野市では、共同浴場の利用者が全裸になる習慣があり、これは多くの外国人旅行者にとっては慣れない文化です。そのため、私的に利用できる客室内の温泉に高い需要があります。追加料金が必要な場合でも、プライバシーを重視する傾向が強まっています。しかし、この傾向が温泉水の過剰な汲み上げを招き、源泉水位の低下を加速させていると指摘されています。
他地域の状況
嬉野市だけでなく、北海道のニセコ温泉地でも同様の問題が報告されています。過去3年間で源泉水位が15メートル低下したとの調査結果があります。これは、観光客の増加に伴う温泉水の大量使用が主な原因とされています。
中央温泉研究所の主任研究員、大塚晃弘氏は、温泉水位の低下には観光客の増加だけでなく、水道管の腐食やポンプ設備の老朽化も影響していると指摘しています。これらの要因が複合的に作用し、温泉資源の減少を招いているとされています。
温泉資源の保護と持続可能な利用
温泉は地域の重要な観光資源であると同時に、地域文化や経済にも深く関わっています。しかし、その持続可能な利用が脅かされる現状を受け、各地で対策が講じられています。例えば、大分県別府市では、温泉の過剰な汲み上げを抑制し、供給量の制限を行うことで、持続可能な温泉利用を目指しています。このような取り組みは、観光客の増加に伴う需要と供給のバランスを保つために不可欠です。
また、温泉法では、湧出時の温度が25度以上であり、特定のミネラル物質が一定量以上含まれていることが温泉の定義とされています。しかし、近年では地下水の過剰な汲み上げや温泉資源の乱用が問題視され、温泉資源を守るための新たな規制やガイドラインの策定が求められています。
日本の温泉地は、その自然環境や文化的価値から、多くの観光客に愛されています。しかし、オーバーツーリズムによる温泉水の過剰使用や資源の枯渇といった問題が深刻化しています。これらの問題を解決するためには、観光客のマナー向上や、地域ごとの適切な温泉資源管理が必要です。