「ブルートレインはなくならない」—国鉄民営化前の自民党広告

かつての「安心してください」広告、今なお議論に

1987年の国鉄分割民営化を前に、自民党は新聞広告で「ブルートレインはなくなりません」「ローカル線もなくなりません」と約束していた。しかし、現実にはブルートレインは2015年までにすべて廃止され、多くのローカル線も姿を消している。

この「約束違反」ではないかという問題が、3月10日の参院予算委員会で改めて取り上げられた。立憲民主党の森屋隆議員は1986年5月22日に掲載された自民党の広告を示し、「これは当時の国民に対する明確な約束だったのではないか。今の現状とあまりに違いすぎる」と指摘。自民党の姿勢をただした。

これに対し、石破茂首相は「この広告、私もよく覚えている」と応じつつ、「分割民営化の際には、ローカル線もブルートレインも残るという話だったはずだが、今はブルートレインは一つもない」と現実を認めた。さらに「夜行特急としては『サンライズ出雲』だけが残っている」と述べた。

なぜブルートレインは消えたのか?

ブルートレインは1956年に「朝風」が登場して以来、日本の長距離夜行列車の象徴として親しまれてきた。かつては東京から西日本や九州、北海道へ向かう夜行列車が数多く運行され、特に「北斗星」「はやぶさ」「富士」「出雲」などは人気が高かった。

しかし、時代の変化とともに夜行列車の需要は減少していった。1987年の国鉄分割民営化後、新幹線の路線拡大、航空機の低価格化、夜行バスの台頭などにより、ブルートレインの利用者は激減。採算が取れなくなったことで、各JR会社は廃止を進めざるを得なくなった。

例えば、2005年には「朝風」が廃止され、2009年には「富士」「はやぶさ」も姿を消した。2015年には「北斗星」が最後の運行を終え、これをもってブルートレインは完全に消滅した。

現在、定期運行の夜行列車として残るのは「サンライズ出雲・瀬戸」だけだ。これはブルートレインとは異なり、寝台車ではなく電車型の285系を使用している。

石破首相「分析が必要」

森屋議員が「自民党の広告に書かれていたことと現実が違う。これは公約違反ではないのか」とただすと、石破首相は「なくなった理由が国鉄分割民営化によるものなのか、それとも新幹線や航空機の発展によるものなのか、分析しなければならない」と述べた。

さらに、鉄道の将来について「これからどうするかを考える際、貨物輸送をトラックから鉄道や船へ移す『モーダルシフト』の観点も大事だ。議論を進めていかなければならない」と付け加えた。

鉄道ファンの視点と、地方の現実

ブルートレインの廃止は、経済合理性を考えれば避けられなかったのかもしれない。しかし、多くの鉄道ファンにとっては寂しい出来事だった。「北斗星」や「トワイライトエクスプレス」のラストランには全国から多くのファンが駆けつけた。

一方、ローカル線の廃止は地方にとって大きな痛手だ。公共交通が失われることで、高齢者や学生の移動手段が限られるだけでなく、地域経済への影響も避けられない。かつて自民党が「ローカル線はなくなりません」と広告で明言していたことを考えると、現在進行中の路線廃止は「約束違反」と指摘されても仕方がないだろう。

今後、政府はブルートレインやローカル線の消滅の背景をどのように分析し、どんな結論を導き出すのか。そして、地方交通をどう維持・活用していくのかが問われている。

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