台湾高官の訪米に中国猛反発 米中間で再燃する“台湾リスク”

外交会談に緊張感

台湾高官の訪米に中国が猛反発 米中関係の火種再燃か

2025年4月7日、中国外務省の林剣(リン・ジェン)副報道局長は北京での定例記者会見で、台湾の国家安全会議の呉釗燮(ご・しょうしょう)秘書長が米国を極秘訪問した件について「米側に対し厳正な申し入れを行った」と強い口調で非難した。米メディアによると、呉氏はワシントン近郊でトランプ前政権に関わった高官らと面会したとされる。

林副報道局長は「台湾問題に手出しすることで、地域の緊張を新たに生み出すようなことはやめるべきだ」と米側にクギを刺したうえで、「台湾当局が米国に頼って“独立”をたくらんでも、それが活路になることは決してない」と台湾の頼清徳(らい・せいとく)政権にも厳しい言葉を投げかけた。

今回の動きは、ただの「訪問外交」にとどまらない。中国はこれを「一線を越える行為」とみなし、近年では最も敏感な外交問題のひとつとして、米国との新たな対立軸になりつつある。台湾問題は米中関係の根幹に関わるナショナル・アイデンティティの問題であり、両国の「我慢比べ」は今後さらにエスカレートする可能性がある。

呉秘書長の訪米は、中国軍が台湾周辺で大規模な軍事演習を行った直後に実施された。中国人民解放軍はここ数日間、東シナ海や南シナ海で長距離実弾射撃を含む演習を繰り返しており、台湾の防空識別圏(ADIZ)にも戦闘機を飛ばして威圧行動を強めている。台湾の国防部は、今月に入ってからの中国機の接近を「過去最大級」と表現し、警戒を強めている。

一方、米国は台湾の安全保障に深く関与してきた歴史を持つ。1979年に中国と国交を正常化した際、台湾との正式な外交関係は断ったものの、同年に成立した「台湾関係法」により、台湾の防衛力強化を支援する法的義務を負っている。バイデン政権以降、米台関係は軍事・経済両面で着実に強化されてきたが、トランプ政権の外交関係者との接触が行われた今回の件は、あらためて米国の台湾支援姿勢が一貫していることを内外に示すかたちとなった。

米国務省はこの件について明言を避けつつも、「台湾との非公式な対話は引き続き行われている」との立場を維持しており、「一つの中国」政策を堅持する一方で、台湾への武器供与や高官との接触は「中国の圧力に屈しない意思表示」として位置づけている。

台湾側もまた、今回の訪問を通じて「米国からの支持が健在であることを確認できた」との見解を示した。頼清徳総統は今年1月の就任以降、中国の圧力に屈しない姿勢を一貫して示しており、民主主義を基盤とした国際社会との連携強化を重視している。

こうした中、中国政府は「台湾独立勢力の抑え込み」を名目に、台湾海峡周辺での軍事的プレゼンスを拡大し続けている。専門家の間では、今後の米大統領選やアジア情勢の動向次第では「偶発的な衝突」や「限定的な武力衝突」のリスクが高まる可能性も指摘されている。

ワシントンの外交筋によると、呉氏と面会したのはトランプ政権時代に台湾との外交・安全保障連携を推進した元高官で、現在も共和党内で影響力を持つ人物たち。2024年の米大統領選ではトランプ氏が共和党候補に返り咲いたことで、再び台湾政策が保守層の関心事項となっている。

一方、北京は「米国内の政局に台湾を利用するな」と牽制しており、今回の訪問が中国側の神経を逆撫でしたことは間違いない。

外交的には「非公式訪問」であるにもかかわらず、中国がここまで強く反応する背景には、台湾問題が単なる一地域の問題ではなく、国内統治や共産党の正統性とも密接に関わっているからだ。習近平政権は「国家統一の実現」を自らの歴史的使命と位置づけており、台湾への関与を「外国勢力の介入」とみなす傾向を強めている。

今後の焦点は、米中双方がどこまで引く余地を残しているかだ。軍事演習のエスカレート、外交ルートでの対話の形骸化、そして台湾内部の政治情勢――。いずれも米中の計算の中で動くが、いずれかが誤算に転じれば、事態は一気に制御不能に陥る恐れがある。

台湾をめぐるこの緊張構造は、単なる「二国間問題」ではなく、日本を含む地域全体の安定に直結する重要な外交課題だ。外交の言葉が意味を持たなくなったとき、次に動くのは軍事力であるという歴史の教訓を、今、世界はあらためて直視する局面にある。

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