政府・与党は、現在1,000円の出国税(国際観光旅客税)を3,000円から5,000円に引き上げ、税収の使途を拡大する方針を検討しています。
これは、訪日外国人の急増に伴い、各地で深刻化しているオーバーツーリズム(観光公害)対策に充てるための措置です。
しかし、税の引き上げだけでは根本的な解決には不十分であり、具体的な対策を講じる必要があります。
オーバーツーリズムの現状と課題
オーバーツーリズムとは、観光客の急激な増加により、地域住民の生活や周辺環境に悪影響が及ぶ現象を指します。
日本でも、京都や富士山、沖縄の宮古島などで、観光客の増加に伴う混雑やゴミ問題、環境破壊が深刻化しています。
例えば、京都の嵐山では観光客が集中し、地元住民の生活環境が損なわれています。また、富士山では登山道の混雑やゴミのポイ捨てが問題となっています。
沖縄の宮古島では、ホテルや交通機関の不足が観光客の増加により顕在化しています。
海外の事例とその教訓
海外では、オーバーツーリズム対策として観光税の導入や引き上げが行われています。例えば、ギリシャではサントリーニ島やミコノス島へのクルーズ船訪問者に対し、ピークシーズンに20ユーロの税を課す計画が進められています。
また、ニュージーランドでは観光税を大幅に引き上げ、観光業の持続可能性を高める取り組みが行われています。
これらの事例から、観光税の収入を観光インフラの整備や環境保護に充てることが効果的であることが示唆されています。
税収の使途拡大とその効果
現在、国際観光旅客税の税収は、訪日誘客のプロモーションやリゾート地の整備など、国際観光振興に関する施策に限定されています。
税収の使途をオーバーツーリズム対策に拡大することで、観光地の交通機関の拡充や空港の整備など、受け入れ態勢の強化が期待されます。
しかし、税の引き上げだけでは根本的な解決には不十分であり、具体的な対策を講じる必要があります。
具体的なオーバーツーリズム対策案
- 観光客の分散化 観光客を特定のシーズンやエリアに集中させない取り組みが重要です。例えば、観光のオフシーズンに割引キャンペーンを行う、知名度の低い観光地を積極的にPRするなどが有効です。新たな観光地を開発することで、観光客を分散させます。
- 予約制の導入 一部の観光地では入場者数を制限するために予約制を導入する方法が効果的です。例えば、奈良県の吉野山では桜シーズンにシャトルバスの利用を予約制にすることで混雑を軽減しています。
- 観光税の導入・引き上げ 観光税を課すことで、収益を環境保全やインフラ整備に充てることができます。京都市では2018年に「宿泊税」が導入され、観光客が負担することで地元の維持管理に役立てられています。2026年にはさらに宿泊税を増やすことで、オーバーツーリズムへの対策へ活用される予定となっています。
- 観光教育の推進 観光客に対して、マナーや地域文化への配慮を促す教育キャンペーンを行うことも重要です。例えば、訪日外国人向けにガイドブックやSNSでの啓発活動を強化することで、観光地での適切な行動を促進できます。
- 住民への支援 住民にとって住みやすい場所であり続けることが、観光地としての魅力を維持する上でも重要です。住民が安心して生活できる環境が整えば、観光客と地元住民の良好な関係も築きやすくなります。また地域住民が快適に暮らし、観光客を歓迎できる環境が整えば、観光地の雰囲気が良くなり、観光客自身の満足度も向上します。
オーバーツーリズムは、観光地の魅力を維持しつつ、地元住民や環境への影響を最小限に抑えるために解決しなければならない重要な問題です。税収の引き上げや使途拡大はその一助となる可能性がありますが、それだけでは不十分です。税収を効果的に活用し、観光地のインフラ整備や環境保護を進める一方で、観光客の分散化や新たな観光地の開発、予約制の導入など、さまざまな具体的な対策を講じる必要があります。
観光業の持続可能性を高め、地元住民の生活を守るためには、観光客に対する啓発活動やマナーの向上を促進することも欠かせません。最終的には、観光地と観光客、そして地域住民が共存できる形での観光が実現されることが求められます。
税の引き上げがオーバーツーリズム解決の全てではなく、これを支える多角的な施策を進めることこそが、観光業の健全な成長を促進する道と言えるでしょう。
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