中国大使館が日本での「中国人襲撃」に警鐘 富士登山や交通ルールも警戒喚起
- 2025/8/22
- 海外情勢

中国大使館が呼びかける「中国人襲撃への警戒」
在日中国大使館が8月18日に発表した注意喚起が波紋を広げている。大使館は、日本国内で治安を脅かす事件が相次いでいるとしたうえで、「中国人を狙った襲撃が各地で起きている」と警鐘を鳴らした。観光や留学で訪れている中国人に向け、「人混みや治安の悪い場所を避け、現地の法律を守って行動してほしい」と呼びかけている。さらに、万が一差別的な行為を受けた場合には「>物理的な衝突を避け、証拠を保全してください」と強調した。
この声明は日本の世論を刺激した。なぜなら、中国大使館は具体的な襲撃事例を挙げていないにもかかわらず、「全国で事件が多発」と大きく表現したからだ。過剰な警戒を煽っているのではないかという見方がある一方で、実際に中国人が被害に遭った事件も発生しており、一定の根拠があるとの受け止めも広がっている。
富士登山と交通安全への注意
大使館の注意喚起は、観光に関連した具体的な事例にも触れている。人気の高い富士山登山については、軽装で挑む中国人観光客が後を絶たず、遭難や行方不明に至るケースがあると指摘した。実際、留学生が豪雨の中を上着一枚で登山し、その後行方不明になった事案が報じられた。大使館は「真夏でも山頂付近は夜間になると気温が5~8度まで下がる。十分な装備を用意してほしい」と伝え、観光のマナーと安全を重ねて求めた。
さらに、鉄道に関連した死亡事故にも触れた。最近、中国人観光客が線路内で写真を撮影していた際に列車にはねられて亡くなったケースがあり、大使館は「信号が赤のときは必ず柵の外で待機し、線路内に立ち入らないように」と呼びかけた。これは日本では当たり前の交通ルールだが、外国人観光客の中にはその意識が十分でない場合がある。大使館の発表は、観光マナー向上の一助となる面も否めない。
京都・大阪で実際に起きた事件
大使館が今回、あえて「襲撃事件」という表現を使った背景には、具体的な事件の発生がある。6月、京都市下京区では観光に来ていた中国人男性が刃物のようなもので切りつけられる事件が起きた。容疑者として逮捕されたのは同じく中国籍の30代男性で、殺人未遂の疑いがかけられている。
また、7月末には大阪市西成区で留学生が背後から首を絞められ、財布やスマートフォンを奪われる強盗傷害事件が発生した。犯人は無職の日本人男性で、数日後に逮捕されている。これらの事件は国籍を問わず起こり得る犯罪だが、被害者が中国人であったことから大使館は「同胞を守る」という名目で声明を出した形だ。
ネット上には様々な声が飛び交った。
「京都の事件は中国人同士のトラブルだろうに“襲撃”と一括りにするのはどうか」
「西成区での強盗は地域の治安の問題。中国人が狙われたというより偶発的な犯罪では」
「観光客が線路に入って事故になるのは以前から問題視されている。大使館が警告するのも当然」
「大使館の発表は日本の治安全体に悪影響を与える印象操作に見える」
「被害者が実際に出ている以上、日本側も安全対策を強化すべき」
こうした反応からは、日本国内の治安の実情と外交上の表現との間に温度差があることが浮かび上がる。
外交的意図と日本政府の課題
今回の発表をめぐっては、外交的な意図を読み取る専門家も少なくない。ロシアがウクライナ侵攻の際に「同胞を守る」という大義を掲げたことを踏まえ、中国が同じ言葉を利用する可能性を懸念する声がある。実際に「中国人が危険にさらされている」と繰り返し強調すれば、いずれ政治的圧力や日本への要求材料に使われかねない。
そのため、日本政府は単に観光促進の立場から外国人受け入れを拡大するのではなく、治安上のリスクを正面から捉える必要がある。観光立国政策を推進しつつも、不法入国や不法滞在の監視を徹底し、犯罪発生時には迅速な対応を行う仕組みが不可欠だ。特に、治安の悪化を招く一部のケースが「外国人問題」として矮小化されると、日本社会全体の安全が脅かされる。
さらに、中国大使館が「中国人襲撃」という言葉を使った背景には、自国民への影響力を誇示する狙いがあるとみられる。自国民に対して「日本は危険だ」という印象を与えることで、日本社会に対する交渉力を強める効果が期待できるからだ。これは単なる安全啓発を超えて、政治的な含意を持つ発信と解釈できる。
求められる冷静な対応
この問題に対して、日本政府がとるべき対応は二つある。第一に、国内治安の強化だ。観光客や留学生が被害者となる事件が現実にある以上、警察のパトロールや監視体制を拡充し、犯罪を抑止する環境を整えることが不可欠だ。第二に、外交上の表現に冷静に対処する姿勢である。中国が国内向けに強い言葉を使ったとしても、過剰に反応してはならない。事実関係を整理し、正確な情報発信を続けることが信頼を守る手段となる。
ネット上では「移民や観光客を無条件に受け入れるのではなく、日本の法や文化を尊重する姿勢を明確に求めるべきだ」という意見も強い。治安の安定を保ちながら国際交流を進めるには、規律ある仕組みづくりが求められている。
中国大使館の警戒喚起は、安全意識を促すという面では一定の意義がある。しかし、「中国人襲撃が多発」という強い表現は、日本社会の治安を一方的に危険視する印象を与えかねない。日本政府は国民と外国人双方の安全を守る観点から、治安対策を強化すると同時に、過剰な外交的圧力に対しては冷静な姿勢を維持する必要がある。今後は観光客へのマナー啓発と国内治安の両立を図ることが、日本の信頼性を高める道となる。