
与那国島沖で台湾調査船が海中調査か 海保が確認も“静かに退去”で幕引き 政府対応に疑問の声
沖縄県・与那国島の西およそ50キロの海域で、台湾の海洋調査船が日本の排他的経済水域(EEZ)内で“海中にワイヤのような機器を投入している”のが確認されたにもかかわらず、日本政府は抗議や外交的対応を取らず、現場海域からの「退去」で済ませた――。6月27日、海上保安庁第11管区本部が明らかにしたこの事案は、領域警備の根幹が揺らいでいる現状を物語る。
台湾の海洋調査船が与那国島周辺のEEZ内でワイヤを海中に下ろしていたのを海保が確認した。巡視船が無線で中止を要求し、調査船はEEZ外に退去した
一見すると、海保が適切に対応したかのように思える報道だが、肝心なのはその“後”である。
日本のEEZ内での無断調査行為 それでも外交抗議ゼロ
EEZ内で海洋調査を実施するには、国連海洋法条約に基づき、沿岸国である日本の「事前の同意」が必要だ。今回のように、台湾船が許可なく調査と見られる行為を行った場合、厳格な抗議や再発防止要求を行うのが本来の対応である。
にもかかわらず、日本政府は「退去を確認した」ことで事を収める姿勢を取り続けている。これでは、外国勢力に対して「調査しても静かに引き下がれば問題ない」との誤ったメッセージを送りかねない。
国際法に則っても、日本はこの種の活動に対して毅然とした姿勢を取る正当な権利を持っている。にもかかわらず、今回も抗議一つないまま、台湾に“譲歩”する形となった。
繰り返される台湾・中国の調査船活動 日本の領域警備は空洞化
台湾による調査船の行動は今回が初めてではない。尖閣諸島周辺や東シナ海、南西諸島一帯で、台湾・中国両方の船舶がワイヤを下ろすなどの“グレーゾーン”活動を繰り返している。
一部の専門家は、こうした海中調査が「科学調査」の名を借りた軍事用の海底地形データ収集、さらには通信ケーブルや海底資源の把握を目的とした偵察である可能性があると指摘する。事実、中国による同様の活動は、米国やフィリピンなどでは大きな外交問題へと発展している。
それにも関わらず、日本だけが「穏便主義」に終始し、何らの外交措置も取っていない現状には、国際社会から見ても違和感を禁じ得ない。
台湾への“配慮”か、ただの及び腰か
台湾は地理的にも政治的にも日本と共通の安全保障上の利害を持つ存在であり、表立った対立を避けたいという意図は理解できる。しかし、国家主権や経済的資源に直結する海域において、「主張すべきときに黙る」ことは、むしろ国家としての立場を弱体化させる行為だ。
特に、今回の調査船活動が行われた場所は、日本の安全保障の要とも言える与那国島のすぐ近海。防衛省はこの島に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配備し、中国の軍事的動向に目を光らせている。そうした戦略的エリアで、台湾が黙って調査活動を行うという事実自体、日本側にとって警戒を強めるべき重大事案である。
それにもかかわらず、日本政府は一言の抗議もなく、台湾側の意図確認すら行っていない。これが中国であれば、世論の圧力も含めて即座に抗議声明が出るはずだ。台湾に対しては、なぜそこまで“沈黙”を守るのか。こうした姿勢は、外交判断ではなく、ただの“及び腰”に過ぎない。
海保・自衛隊の現場任せ 国としての判断を放棄するな
現在、現場で実際に対応しているのは海上保安庁であり、その活動には敬意を表するべきだ。しかし、問題はこの調査活動を“政府全体の問題”として引き取る意思が、官邸・外務省・防衛省からまるで見えないことにある。
外交ルートを通じた正式な抗議、再発防止策、事前通報制度の整備――これらを怠ることで、同様の“様子見型調査”が次々と横行するリスクが高まっている。とりわけ与那国島は、日本のEEZ防衛の最前線であり、ここを手薄にすれば尖閣防衛、さらには本土近海の警備にも重大な穴を開けかねない。
国としての「明確なメッセージ」を発することが、こうした海域における外国調査船の不正行動を抑止する唯一の手段だ。
今こそ“見逃さない国家”への転換を
台湾による調査活動が“事前許可なし”で行われたにもかかわらず、日本政府がこれを“静観”し、何らの対外的アクションを起こさないという姿勢は、国家主権の放棄に等しい。
領海・EEZを守るとは、軍事力を誇示することではなく、「ここは我が国の利益が及ぶ範囲である」という意思を、行動と外交の両面で示すことだ。
台湾に対しても、友好国であればこそルールを尊重させる厳格な態度が求められる。日本政府は、こうした海洋活動をめぐる“見て見ぬふり”の姿勢を改め、主権を守る国家としての信頼を国際社会に示すべきだ。