中国無人機、過去最多の接近 自衛隊スクランブル704回の現実― 日本の空に迫る新たな脅威、令和6年度の防衛最前線 ―

日本の領空を領空侵犯する中国軍機とロシア軍機

【中国・ロシアの動き活発 無人機対応が過去最多に】
航空自衛隊の緊急発進、令和6年度は704回 中国の無人機活動が急増

防衛省は4月10日、令和6年度(2024年度)に航空自衛隊が実施した緊急発進(スクランブル)の回数が704回にのぼったと発表した。前年度より35回増え、3年連続で700回超えの高水準が続いている。

この数字から浮かび上がるのは、中国とロシアによる空域での活動が依然として活発であること、そして中国による無人機の運用が新たな段階に入ったという現実だ。

中国機が全体の7割、無人機は「過去最多」

国・地域別の内訳を見ると、中国機に対するスクランブルが464回で全体の約7割を占めた。ロシア機は237回と前年度より63回増え、再び存在感を強めている。

特に注目されたのは、中国軍の無人機に対する対応が23回と過去最多を記録したことだ。前年度の8回と比べると、実に約3倍。防衛省では、中国軍がこれまでの「試験飛行」から「実戦を意識した運用」に踏み切った可能性があると見ている。

記者会見で統合幕僚長の吉田圭秀氏は「緊急発進の件数は高止まりしており、中国の無人機については特に警戒を強めている」と語った。

領空侵犯も現実に 中露の挑発続く

単なる「接近」ではなく、実際の領空侵犯も起きている。昨年8月には中国の情報収集機が九州西方の上空で日本の領空を侵犯。9月にはロシアの哨戒機が北海道沖で1日3度の領空侵犯を繰り返す異例の事態が起きた。いずれも航空自衛隊が即時対応し、警告を発している。

また、中国とロシアの爆撃機が日本周辺を長距離で共同飛行するなど、連携した動きも目立つようになってきた。

無人機の存在感 安全保障に新たな課題

防衛省の関係者によれば、中国が運用する無人機は近年、大型化・長距離化が進んでおり、一部は攻撃能力を持つとされる。とくに注目されたのが、2024年5月に東シナ海で飛行が確認された「WL-10」型の無人偵察機だ。これは超音速で飛行できるとされ、嘉手納基地周辺を飛行していたことも明らかになっている。

有人機とは違い、無人機はパイロットの安全を気にせずにリスクを取れるため、より大胆な行動が可能となる。これにどう対処していくかは、日本の防空態勢にとって大きな課題だ。

南西方面の緊張続く 那覇基地が最多対応

スクランブルの約6割は那覇基地を中心とした南西航空方面隊が担った。計411回の出動は、地理的に中国に近い沖縄周辺での警戒活動が頻発している証しだ。

南西諸島周辺は尖閣諸島問題や台湾情勢などで地政学的に緊張が高まる地域でもあり、今後さらに対応が求められる可能性がある。

防衛省は警戒強化へ

防衛省は今後、無人機対応を含めた防空能力の強化を急ぐ構えだ。レーダー網の強化、指揮統制の迅速化、自衛隊の即応体制の整備が喫緊の課題として挙がっている。

航空自衛隊関係者は「これからは無人機が中心になる時代。目に見えない脅威にも備えなければならない」と語る。

スクランブルの回数からは見えにくいが、日本周辺の空は確実に緊張感を増している。数だけでは語りきれない現場の逼迫感に、私たちはもっと敏感であるべきかもしれない。

領空侵犯の恐れある外国機への緊急発進704回 令和6年度、中国無人機が前年度比3倍に

関連記事

おすすめ記事

  1. 中国戦闘機が自衛隊哨戒機に危険な接近 45メートルの至近距離に防衛省が強く抗議 中国空母「山…
  2. 中国海警局の船、尖閣周辺で再び領海侵入 日本漁船に接近 2025年5月7日、沖縄県石垣市の尖…
  3. 洋上風力に立ちはだかる現実 三菱商事の巨額損失が突きつけた問い 真っ青な海と空、そして白く輝…
  4. 新型ウイルス「HKU5-CoV-2」が中国で発見 致死率最大35%のMERS系、ヒト感染リスクに警戒
    新型コロナウイルス「HKU5-CoV-2」発見:中国で確認された“次のパンデミック候補”に警戒 …
  5. 中国系開発による森林法違反疑い 羊蹄山麓で無許可伐採、北海道が工事停止を勧告 北海道の自然の…

新着記事

  1. 鹿児島・悪石島で震度6弱 全住民に避難指示、生活インフラの早期復旧が急務 7月3日午後4時1…
  2. 大阪で拡大する“民泊マンション” 住民からは「制度に欠陥」と不安の声 訪日観光客の急増ととも…
  3. 手ぶら観光の裏側で起きた“想定外”の迷惑行為 世界遺産・平等院が荷物預かりを中止した理由 観…
  4. 尾身茂氏の発言に波紋 ワクチン効果と「誤解」の真意とは 新型コロナ対策の中心人物として知られ…
  5. 与那国島沖で台湾調査船が海中調査か 海保が確認も“静かに退去”で幕引き 政府対応に疑問の声 …
  6. 女子児童盗撮、SNSで共有 “教師だけの盗撮コミュニティ”発覚 愛知県警は6月24日、名古屋…
  7. フェンタニル密輸に日本が関与か 駐日米大使が警鐘「中国共産党が意図的に関与」 アメリカで深刻…
  8. TOEIC不正受験に暗躍する中国系業者、日本の試験制度に突きつけられた警鐘 日本国内で実施さ…
  9. 無償化では少子化は止まらない 出生率上昇の“改善報道”の裏にある移民依存の実態 「保育無償化…
  10. 【自民党の自己矛盾が浮き彫りに】「ポピュリズム批判」と「タレント擁立」戦略の二重基準に有権者の疑問…
ページ上部へ戻る