
狭い空間でのストーブ利用、やっと国が指針整備 急増する利用者に応える
総務省消防庁はこのほど、屋外に設置する「テントサウナ」や「バレルサウナ」向けに、初となる安全基準をまとめた。
近年のサウナブームで利用が爆発的に拡大するなか、これまで曖昧だった簡易サウナの安全ルールがようやく整備されることになる。消防庁は、2025年度中に関係省令を改正し、正式なルール化を目指す方針だ。
背景にあるのは“縦割り”の限界
これまで日本のサウナ安全基準は、旅館やホテル内にある固定式サウナ室を前提に作られていた。基準では「放熱設備(ストーブ)と可燃物との距離」や、「木材表面温度の上限」などが定められているが、それらはあくまでコンクリート建物内の専用室を想定したものだった。
そのため、
- テントや木製バレルなど移動可能な設備
- 薪ストーブや小型電気ストーブの使用
- 不特定多数が一時利用するアウトドアイベント
こうした近年の多様なサウナスタイルには全く対応できていなかった。
自治体ごとの条例や個別の判断に任され、「グレーゾーン」のまま野放し状態だったのである。
事業者やユーザーからは「どの距離なら安全か分からない」「設置許可が自治体によって違いすぎる」といった声が相次ぎ、国に統一基準策定を求める機運が高まっていた。
新たな安全基準の中身は
消防庁が今回示したのは、あくまで「最低限クリアすべき条件」だ。具体的には、次のようなルールが求められる。
簡易サウナ(テント・バレル型)安全基準一覧
項目 | 内容 |
---|---|
対象施設 | テントまたはバレル型の簡易サウナ(屋外設置) |
対象ストーブ | 最大出力6キロワット以下の薪ストーブまたは電気ストーブ |
可燃物との距離基準 | ストーブの上方:100cm以上、周囲:10cm以上離すこと |
可燃物表面温度 | ①表面温度が100℃を超えない または、②木材の場合は200~300℃を超えないこと |
ストーブの固定 | 転倒防止のため、地面や床にしっかり固定する措置を取る |
熱源遮断装置 | 温度異常を検知した場合、自動でストーブを停止する機能を備えることが望ましい |
自動消火装置 | できればストーブ周辺に**自動消火機能(消火剤噴射など)**を設置すること |
換気の確保 | 一酸化炭素中毒防止のため、常時換気口を設け、酸素濃度を保つこと |
風対策 | 強風でテントが倒壊したりストーブが転倒しないよう、ペグ固定や防風ネット使用を推奨 |
燃焼時の監視義務 | サウナ使用中は、常時目視監視できる体制を取ること |
実証実験も後押し
新たな基準策定にあたり、消防庁は民間事業者とも連携して検証を行った。
試験には、テントサウナブランド「ICOYA(イコヤ)」(メトス社製)のテントと、電気ストーブ「SM60」が使用された。
実験の結果、
- ストーブの上方100センチ、周囲10センチのクリアランスを確保
- テント生地の温度上昇が抑えられ、引火リスクが大幅に低下
こうしたデータが得られたことで、今回の基準の裏付けとなった。
消防庁担当者は、「あくまで“最低ライン”であり、できるだけ広いスペースを取るに越したことはない。事業者ごとの工夫も期待したい」と話している。
利用者の安全確保へ 今後の課題も
新基準の策定は歓迎される一方で、課題も残る。
特に、
- イベント時など短期利用の際の指導体制
- 独自仕様の自作テントサウナへの適用
- 外国製ストーブの安全基準適合性の確認
こうした細かい運用面での課題については、今後さらにガイドラインを詰めていく必要がある。
また、屋外で薪ストーブを使用する場合、一酸化炭素中毒のリスクも無視できない。
今回の基準では換気口の設置が推奨されるに留まっているが、実際には一酸化炭素警報器の設置義務化など、さらに踏み込んだ対策が求められる可能性もある。
今回の基準策定は、「今さらか」という声が出る一方で、これまで野放し状態だった簡易サウナ利用に一定の安全網をかける重要な一歩だ。
サウナ愛好家にとっても、事業者にとっても、より安心してサウナを楽しめる環境が整いつつある。
ただし、ガイドラインはスタートラインにすぎない。
今後は、国だけでなく、自治体・民間・ユーザーそれぞれが連携しながら、安全意識を文化として根付かせていけるかどうかが問われることになる。
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