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- 「民泊で日本に移住」急増する中国人経営者、大阪に広がる“静かな移住バブル”

中国人移住に「民泊」という選択肢 大阪で急増、SNSが背中押す
「民泊経営で日本に移住できる」――そんな言葉が、中国のSNS上で広まっている。
日本で暮らす中国人の数が近年大きく増えている中、とくに目立つのが「経営・管理」ビザを使ったケースだ。飲食店や物販ではなく、「民泊」を事業としてビザを取得し、日本に移り住む。そんな流れが今、大阪の町中で静かに広がっている。
「民泊ならビザが取れる」SNSにあふれる“指南情報”
大阪市西成区。昔ながらの木造家屋が並ぶ天下茶屋の一角に、中国出身の張華さん(32・仮名)は暮らしている。築50年超の2階建てを3000万円ほどで購入し、リフォームして民泊として運営している。
「日本での生活はとても快適。民泊をきっかけに移住できました」。そう語る張さんは、中国では飲食店を営んでいたが、日本文化に惹かれ、何度かの来日を経て「住みたい」と思うようになったという。
移住の方法はSNS「小紅書(RED)」で調べた。日本語が話せなくても大丈夫、飲食店より民泊のほうが審査が通りやすい――そんな情報があふれていた。実際、SNSで見つけた中国人行政書士に頼み、3か月ほどでビザが取れた。
「大阪は安くて近い」住居購入も中国人業者に一任
張さんが大阪を選んだ理由は、東京より物件が安く、中国本土からもアクセスが良いこと。物件の購入や手続きも、すべて中国人不動産業者に任せた。
観光客の出入りも順調で、民泊経営は軌道に乗りつつある。長男と2人暮らしの張さんは「いずれは日本で飲食店もやって、夫も中国から呼び寄せたい」と語る。
こうした中国系民泊経営者は、今や大阪市内で目立つ存在だ。
「ミニバブル」状態の大阪・西成
とくに西成区では、中国系オーナーによる民泊が増えている。
阪南大学の松村嘉久教授(観光地理学)によると、2024年末時点で大阪市内の「特区民泊」(営業日数制限なし)5587件のうち、約4割の2300件超が中国系事業者によるものだという。その半数は2022年以降の新規参入だ。
長年この地区に住む高齢女性は「この辺り、民泊だらけになった」と話す。不動産業者から「家を売りませんか?」というチラシが頻繁に入るようになり、周辺住民が引っ越すケースもあるという。
地元の不動産業者は「築古の空き家を中国人が買いあさり、“ミニバブル”みたいな状態」と打ち明ける。中国人オーナーが買い取ってリノベーションし、価格を押し上げている。
「移住の道具としての民泊」広がるスキーム
民泊が移住手段として機能している――松村教授はそう指摘する。調査の結果、中国に住んでいた人物が法人を設立し、特区民泊の認可を受けたタイミングで日本に移住している事例が多数確認されたという。法人資本金は経営・管理ビザの下限である500万円に揃っているケースが多く、制度利用の“型”が見えてくる。
一方で、中国のSNSには民泊以外にも「日本語不要で始められるビジネス」として、貿易業やEC運営が紹介されている。
2023年6月に大阪へ移住した許健さん(50・仮名)は、コロナ禍のロックダウン政策への不信感から日本移住を決意。現在は日本で不動産紹介のコンサル業を営む。「中国の経済も不安定だし、移住は今後ますます進むはず」と語る。
「500万円は格安」中国富裕層から見た日本の“安さ”
経営・管理ビザの取得には500万円の出資が必要とされるが、これは国際的に見ると極めて低い水準だ。
海外移住支援企業「アエルワールド」の大森健史社長は「アメリカでは投資ビザに数千万円かかる。日本は非常に安い」と話す。米国ではビザ取得に最低でも20万ドル、永住には80万ドル超の投資が求められる。
大阪市内に複数の不動産を所有する王紅運さん(仮名・40代)は「500万円で移住できる日本は本当にお得」と断言する。こうした中国人富裕層にとって、日本移住は現実的かつ魅力的な選択肢となっている。
今後、日本社会との軋轢も?
在留外国人統計によれば、2024年6月末の時点で日本に住む中国人は84万人を超え、過去10年で20万人増加している。
松村教授は「制度本来の目的とは異なり、“安易な移住手段”として経営・管理ビザが使われている実態がある」と警鐘を鳴らす。今後も移住者が増えれば、日本社会との摩擦や地域コミュニティの変容も懸念される。
「ビザ制度の適正運用と、実際に経営が行われているかのチェック体制を強化するべきだ」と語る松村教授。大阪で広がる“民泊移住”の波は、いま日本の制度の隙間を突いて静かに拡大している。
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