
トランプ氏、対日15%関税に署名 カナダには35% 7日後に発動へ
米国のトランプ大統領は7月31日、各国の対米貿易政策に対抗するかたちで新たな「相互関税」の大統領令に署名した。これにより、日本や韓国、欧州連合(EU)などには15%の関税が課されることになり、発効は署名から7日後の8月7日とされている。関税率は対象国によって異なり、シリアには最大の41%、ミャンマーやラオスには40%が適用される一方、インドには25%、台湾には20%が設定された。
「関税政策は米国の産業を守る手段であり、公平な競争条件を整えるために不可欠だ」とトランプ氏は語っている。
また、今回の発表に際してホワイトハウスは、特定の交渉が成立していない国々には一律10%の関税を課すとも明らかにした。これは米国の「公平性の回復」というトランプ政権の主張に基づくものだ。
対日関税は“合意の結果”として15%に抑制
日本は今回、事前の貿易協議で一定の合意に達したとされ、25%の関税案から15%に抑えられた形だ。アメリカ側は、日本からの自動車部品や電子機器に代表される高付加価値品の流入に対して強い懸念を示してきた。
背景には、アメリカが抱える貿易赤字の問題と、国内製造業の雇用維持への政治的圧力がある。トランプ氏は、2025年の再選以降、「米国第一」の貿易姿勢を一層強めており、今回の措置はその一環だ。
「日本との協議は建設的だった。だが、相互主義の原則は譲れない」と米通商代表部(USTR)の関係者は述べた。
日本政府はこの決定に対し、「米国市場へのアクセスを維持するため、引き続き対話を重ねたい」と慎重な姿勢を見せているが、自動車業界を中心に国内経済への影響は避けられない情勢となっている。
カナダには“制裁”として35%関税 麻薬問題が背景に
注目を集めたのは、カナダに対する関税の大幅な引き上げだ。これまで25%だった税率を、トランプ政権は35%に引き上げると発表した。これは、カナダが合成麻薬の米国流入阻止に向けた協力要請に応じなかったことが主因とされている。
「我々はこれ以上、北から麻薬が流れ込むのを容認できない。関税は協力を促すメッセージだ」とホワイトハウス高官は語った。
カナダ政府は即座に反発しており、「この措置は根拠に乏しく、自由貿易協定(USMCA)にも反する」と強く抗議している。今後、報復関税を含む対応に踏み切る可能性がある。
“協議成立”国と“非合意”国で明暗
今回の関税政策では、米国が事前に個別交渉を行った国々の中で「合意に達したか否か」で大きく明暗が分かれた。
- 韓国:米国への天然ガス購入拡大や対米投資を約束し、15%関税で妥結。トランプ政権は韓国側の「前向きな対応」を評価。
- EU:医薬品・自動車など一部品目で調整し、15%にとどまった。ただし、今後さらなる協議が必要との見方も。
- 台湾・インド・東南アジア諸国:交渉が難航し、20〜25%と高水準の関税が設定された。
また、シリアやミャンマー、ラオスといった国々には、貿易構造の脆弱性や安全保障上のリスクを理由に40%超の関税が課された。
国内では法的対立も 最高裁判断へ発展か
この強硬な関税政策に対して、米国内でも反発の声が高まっている。一部の企業団体や市民団体は、トランプ政権が「国家の緊急事態」を理由に大統領権限で関税を設定したことについて、「違憲の可能性がある」として提訴。すでに複数の連邦裁判所で審理が始まっており、最終的には最高裁での判断に委ねられる見通しだ。
特に問題視されているのは、「国際緊急経済権限法(IEEPA)」の解釈。これを根拠とするトランプ氏の主張に対し、「本来、関税は議会の承認が必要だ」という立場との対立が顕在化している。
日本経済への影響 自動車・機械業界に打撃も
今回の15%関税は、日本経済にとっても無視できない影響を及ぼす。特に、米国市場に依存する自動車産業や電子機器メーカーには、利益圧迫要因となる。日米双方で調整されたとはいえ、コスト転嫁や為替リスクによる影響が避けられないため、株式市場でも懸念材料として浮上している。
日本政府は、貿易・通商分野に関する対応チームを内閣官房内に設置し、必要な支援策や交渉戦略の再構築を急いでいる。
「関税強化が長期化すれば、国内生産や雇用への影響も深刻化する」と経済産業省幹部は語る。
今後の焦点は報復関税と多国間対応
関係国の中ではすでに「報復関税」を検討する動きもある。とりわけ、カナダ、インド、EUでは、WTOへの提訴や他国との連携による対米包囲網が模索されている。日本としても、日米の安全保障関係を踏まえつつも、「経済的主権の確保」に向けた調整が迫られる。
今後の焦点は、8月7日以降に発動される関税の実質的な影響、およびトランプ氏がさらに追加措置を講じるのかどうか。また、米国内外での反発が政権の支持率や大統領選挙にどう影響するかも注目される。