中国、ペロブスカイト太陽電池の量産技術を確立 高効率・長寿命の次世代発電が商用化へ前進

【中国が主導する太陽光の新時代】ペロブスカイト太陽電池、ついに産業化のステージへ

再生可能エネルギー分野で世界をリードする中国が、太陽光発電の次世代技術として注目を集める「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」の商用量産に向けて、また一歩前進した。

杭州繊納光電科技を中心とする企業・大学合同チームが、ペロブスカイト太陽電池における大面積モジュールの安定量産を可能にする新しい製造技術を開発した。この成果は権威ある国際科学誌『Science』に掲載され、技術の革新性が世界に認められている。

「ペロブスカイトは第3世代の太陽電池。軽くて柔軟性があり、曇り空でも安定して発電できる特性がある」

こう語るのは、同社の最高技術責任者である顔歩一氏。従来の製造プロセスでは、結晶膜の厚さや均一性の管理が困難だったが、それを打ち破る新技術が登場した。

高精度の成膜を実現「3次元層流場」技術とは

今回のブレイクスルーとなったのが、「3次元層流場」技術と呼ばれる新たな塗布法だ。スピンコーティングと真空フラッシュ蒸着を組み合わせ、気流を安定的かつ方向性を持ってガラス基板上に流すことで、ペロブスカイトの結晶をより均一に形成することができる。

このプロセスは、流体力学の数値シミュレーションにより最適化されており、0.79平方メートルという大型モジュールにおいても、膜厚のばらつきをわずか3マイクロメートル未満に抑えることに成功。従来の課題だった「結晶のムラ」が大幅に解消された。

さらに、表面の欠陥が減り、結晶の形もより整うことで、残留溶剤を90%も削減。これにより、発電効率の向上と長期的な耐久性の両立が可能になった。

商用レベルでの耐久性と性能が証明

屋外での実証試験では、10年後の出力劣化率が10%以下に抑えられると推定されており、太陽光モジュールに求められる耐用年数をクリア。つまり、この新技術は、理論上の研究ではなく、実際の発電現場でも通用するレベルに到達したことを意味している。

「今回の技術を使ったモジュールは、長期間にわたって高性能を維持できる。これは太陽電池にとって極めて重要な指標だ」

顔氏は、そう自信を見せる。

量産体制と発電所建設も加速

この技術を応用した100メガワット級の生産ラインでは、量産モジュールの歩留まりが98.5%を超え、出力は0.79平方メートルあたり118ワットを記録した。

さらに、この生産ラインに基づいて建設された500キロワット規模の商用ペロブスカイト発電所では、従来型の結晶シリコンモジュールと比較して、ピーク時間あたりの発電量が29%多く、高温期における発電量も31.9%上回るという結果が出ている。

「高温でも発電効率が落ちにくく、ピーク時間が長い。これは、従来のシリコンモジュールでは実現しづらい性能だ」

このように、PSCの優位性は単なる理論にとどまらず、実用段階でも明確なアドバンテージを示している。

世界の太陽光発電を塗り替えるか?今後の注目点

今回の成果は、中国がペロブスカイト太陽電池の「量産化・商用化」への道を着実に歩んでいることを示すものであり、世界中の太陽光発電業界にとっても大きなインパクトを与えている。

現在、日本や欧米も含め、PSCに関する研究開発は活発化しているが、ここまで実用化に近づいたのは中国が初めて。特に中国では、複数の企業がすでに100メガワット以上の量産ラインを構築しており、さらにギガワット級への拡張も予定されている。

一方、日本では建物一体型太陽光発電(BIPV)や都市部での活用に向けた薄膜型PSCの研究が進んでおり、用途の多様化という点で戦略的な差別化が図られている。

ペロブスカイトは“次の主役”になれるか

ペロブスカイト太陽電池は、これまで「研究室レベルの夢の技術」と言われてきた。しかし、今回の中国チームの成果は、その夢が現実に近づいていることを世界に示したものだ。

長寿命・高効率・量産性という3つの課題をクリアした今、次に問われるのはコストと普及。とはいえ、1モジュールあたり118Wの出力、10年で10%以下の劣化率という性能は、すでに商用ベースでの活用に十分なレベルにある。

この先、さらに多くの発電所に導入されることで価格が下がり、一般家庭や都市インフラにも導入が進めば、ペロブスカイトは世界の太陽光市場で“主役”の座をつかむかもしれない。

ペロブスカイトの量産化は、再生可能エネルギーの未来を根本から変える可能性を秘めている。

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