自民党総裁選 “見せかけの物価高対策”に国民の未来は託せるか

自民党総裁選 “見せかけの物価高対策”で国民を救えるのか

自民党総裁選の論戦が進むなか、5人の候補者はいずれも「物価高対策」を前面に掲げている。だが提示された政策を見渡すと、過去の自民党政権が繰り返してきた発想から一歩も踏み出せていないことが浮き彫りになる。定率減税、交付金、給付、そしてガソリン税の暫定税率廃止。どれも耳障りはよいが、長年の課題である実質賃金の低迷や生活コストの上昇に本気で取り組む姿勢は乏しい。

候補者主な物価高・経済対策補足・姿勢
小林鷹之・所得税の「定率減税」を所得制限付き・期間限定で実施・恒久的な新たな所得税制を検討(1年以内に結論)消費税率引き下げは現時点で実施せず、議論は必要との立場
茂木敏充・2年以内に物価高を上回る賃上げを定着・数兆円規模の「生活支援特別地方交付金」を創設(自治体が自由度高く活用)・物価連動で保育士や看護師の処遇改善消費税率引き下げは困難との見解
林芳正・1%程度の実質賃金上昇を定着・低中所得世帯向け「日本版ユニバーサル・クレジット」を創設(給付中心、2年以内に実施)消費税率引き下げは困難との見解現金給付は与野党協議のベースに
高市早苗・自治体向け重点支援交付金を拡充・「給付付き税額控除」制度設計に着手消費税率引き下げは議論は必要だが現時点で実施せずガソリン税暫定税率廃止+軽油引取税も廃止
小泉進次郎・インフレ対応型の所得税制見直し(基礎控除を物価・賃金上昇に連動して調整)・医療・介護・教育分野で処遇改善消費税率引き下げは困難との見解
共通項目・ガソリン税の暫定税率は全員廃止方針・消費税率引き下げには全員慎重(茂木・林・小泉は「困難」、小林・高市は「議論は必要だが現時点で実施せず」)高市早苗のみ軽油引取税の暫定税率も廃止

減税の“つなぎ策”では根本は変わらない

小林鷹之氏は「定率減税」を期間限定で打ち出した。小泉進次郎氏は「インフレ対応型税制」を掲げる。だが、どちらも恒久的な生活安定の道筋は示していない。時限的な減税は期限が切れれば家計の反動減を生み、複雑な調整制度は導入後に混乱を招くリスクがある。

交付金と給付に依存する姿勢

茂木敏充氏は数兆円規模の「特別地方交付金」を打ち出し、林芳正氏は「ユニバーサル・クレジット」の創設を訴える。だが交付金や給付は一時的に消費を下支えするだけで、地域間格差や制度運用の難しさを放置したままだ。これまで幾度となく繰り返されてきた「バラマキ」の延長線上にしか見えない。

高市氏の“二正面作戦”

高市早苗氏は交付金拡充と「給付付き税額控除」の制度設計を進めるという。しかし、所得把握や制度連携の仕組みづくりを示さないままでは絵に描いた餅で終わる。

ガソリン税廃止という“人気取り”

5人全員がガソリン税の暫定税率廃止を唱える。しかし、参院選で示されたのは「減税」であるにも関わらず、自民党は「財源」を求め時間稼ぎをしている。

参院選では11月までに廃止と公約を掲げた野党が議席を増やした。総裁選候補者も「やるやる詐欺」ではなく「いつまでに」という期限を掲げるべきである。

消費税は“聖域”のまま

消費税率引き下げについては、候補者全員が慎重だ。茂木・林・小泉の3氏は「困難」と言い切り、小林・高市も「議論は必要」としつつ実行する気配はない。消費税が最大の税収源であることは理解できるが、庶民の負担を軽減する手段を早々に放棄する姿勢は、政治的リスクを恐れる自民党の体質そのものだ。

本気度が見えない“賃上げ”

候補者の多くが「賃上げ」を口にする。だが現実には実質賃金は依然としてマイナスが続き、最低賃金の引き上げも企業のコスト負担を増やすだけで終わりかねない。成長戦略や生産性向上のビジョンを欠いたままでは、掛け声倒れに終わるだろう。

結局は“自民党の悪い体質”の継承

今回の総裁選で示された政策を冷静に眺めれば、各候補が口をそろえて繰り返すのは「減税か、交付金か、給付か」。どれも一時的なつなぎ策にすぎず、抜本的な構造改革への踏み込みは見えない。長年続く自民党の「場当たり的対策」の悪癖が、そのまま引き継がれているとしか言いようがない。

次期総裁に誰が選ばれようと、国民生活に直結する物価高対策が“人気取りの方便”で終わるなら、暮らしの不安は解消されない。問われているのは、耳あたりのよい公約ではなく、実効性ある改革の覚悟だ。

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