
木徳神糧、コメ高騰で過去最高益28億円へ 価格転嫁と取引戦略が奏功
コメの価格が異例の高騰を続ける中、大手コメ卸企業の木徳神糧が業績予想を大幅に引き上げた。2025年12月期の純利益は、従来見通しの18億円から28億円へと増額され、過去最高益を記録する見込みだ。売上高も100億円増の1,650億円となる見通しで、こちらも過去最高を更新する。
コメ流通の現場では、価格高騰が家計を直撃する一方で、流通企業にとっては構造的な転換点ともいえる。木徳神糧はこの波をどう乗りこなしてきたのか。その背景には、安定供給への努力と価格交渉の巧妙さがあった。
価格高騰を追い風に “高値でも売れる”市場環境
2024年産のコメは記録的な不作に見舞われ、需給バランスが大きく崩れた。とくに業務用米の調達難により、価格は例年を大きく上回る水準に跳ね上がった。こうした状況下でも、木徳神糧は流通網を駆使して安定的に商品を供給。取引先との価格交渉でも、原価の上昇分を着実に転嫁することに成功している。
担当者は「相手先の理解を得ながら、価格改定を段階的に進めた」と説明。急な値上げで取引が止まることを避け、徐々に市場価格へ近づけていく調整力が、利益拡大につながったと見られる。
特売縮小と既存取引先の比重増で利益率が改善
スーパーなどの小売業界では、かつて頻繁に実施されていた“コメの特売”が、物価高騰により減少傾向にある。木徳神糧は、これまで利幅を削って卸していた特売用商品からの依存を減らし、通常価格帯での販売を強化したことで、全体の利益率が向上した。
また、新規の販路開拓は最小限にとどめ、既存の安定した取引先との関係強化に重きを置いた。価格競争に巻き込まれにくく、利益を確保しやすい構造が築かれている。
価格転嫁だけじゃない、IT投資と供給網の整備
今回の好業績は、単に価格高騰の恩恵にあずかっただけではない。木徳神糧はここ数年、IT投資と物流ネットワークの強化に注力してきた。受発注のデジタル化によってコスト削減を実現し、また複数拠点からの安定供給体制を確立することで、需給の混乱にも柔軟に対応できる体質へと進化している。
物流の遅延や原材料の偏在が課題となる中、こうした「平時からの備え」が結果として企業競争力を押し上げた格好だ。
先行きは不透明でも、“高収益体質”が定着か
農水省は、価格安定のために備蓄米の放出などを検討しているが、市場価格がすぐに大きく下がる可能性は低いとみられている。今後も天候や需給の影響を大きく受ける農産物市場において、価格変動リスクは避けられない。
ただし、木徳神糧のように「適正価格の交渉」「高コスト体質からの脱却」「顧客との信頼関係」に取り組んできた企業は、不安定な市場でも安定収益を確保しやすくなってきている。
消費者にとっては厳しい状況が続くものの、流通企業がより強固な供給体制を築くことは、最終的には安定的な食料供給にもつながる。木徳神糧の事例は、食品流通の変化を象徴する一例といえるだろう。