
北朝鮮、短距離弾道ミサイル発射実験を実施:金正恩総書記が視察し、核戦力の即応性を強調
2025年5月8日、北朝鮮は東部沿岸の元山(ウォンサン)付近から複数の短距離弾道ミサイルを発射し、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記がこれを現地で視察したと、国営メディアの朝鮮中央通信(KCNA)が報じました。今回の発射は、米韓合同軍事演習への対抗措置とされ、北朝鮮の核戦力の即応性と攻撃能力の向上を目的とした訓練の一環とされています。
発射された兵器とその特徴
KCNAによれば、今回の発射には、戦術弾道ミサイル「火星11(KN-23)」と600ミリ多連装ロケット砲が使用されました。これらの兵器は、核弾頭の搭載が可能とされ、北朝鮮の戦術核兵器体系の一部を構成しています。特に「火星11」は、ロシアのイスカンデルミサイルに類似しており、変則軌道での飛行が可能であるとされています。
韓国合同参謀本部(JCS)は、発射されたミサイルのうち1発が約800キロメートル飛行し、日本の排他的経済水域(EEZ)の外側に落下したと発表しました。また、これらのミサイルは変則軌道で飛行した可能性があり、迎撃を困難にする特徴を持っていると指摘されています。
金正恩総書記の発言と北朝鮮の意図
金正恩総書記は、今回の訓練を通じて「核戦力の恒常的な戦闘準備態勢を絶えず完備するのが極めて重要だ」と述べ、核兵器の即応性と攻撃能力の向上を強調しました。また、長距離精密攻撃能力と兵器システムの効率性を持続的に向上させる必要性を訴えました。
KCNAは、今回の発射が米韓の合同軍事演習に対する対抗措置であり、北朝鮮の核戦力の即応性を検証する目的で行われたと報じています。また、発射訓練を通じて、ミサイルやロケットシステムを運用する軍部隊の訓練と、核兵器管理システムの下での攻撃実行能力の向上を図ったとしています。
国際的な反応と懸念
韓国統一省の報道官は、今回の発射を「国連安全保障理事会決議に違反し、地域の平和と安定に深刻な脅威をもたらす明確な挑発行為」と非難しました。また、韓国軍は、今回の発射が輸出を計画している兵器の性能をテストするためのものである可能性があると分析しています。
日本の防衛省は、発射されたミサイルが日本のEEZ外に落下したと推定し、現時点で被害報告はないと発表しました。防衛省は、引き続き米国や韓国と緊密に連携し、情報収集・分析および警戒監視に全力を挙げるとしています。
北朝鮮とロシアの軍事協力の深化
今回の発射は、北朝鮮がロシアとの軍事協力を強化している中で行われました。報道によれば、北朝鮮はロシアに対し、KN-23やKN-24などの短距離弾道ミサイル、数百万発の砲弾、ロケットシステムを供給しており、ロシアのウクライナ侵攻を支援しています。また、北朝鮮は約15,000人の兵士をロシアに派遣し、そのうち約5,000人が戦死したと報じられています。
このような軍事協力により、北朝鮮はロシアから先進的な軍事技術や資源を獲得し、自国の軍事力を強化しているとみられています。専門家は、北朝鮮がウクライナでの戦闘を通じて兵器の実戦データを収集し、兵器の性能向上や輸出促進に活用している可能性があると指摘しています。
地域の安全保障への影響と日本の対応
北朝鮮のミサイル発射は、日本の安全保障に対する重大な脅威となっています。特に、変則軌道で飛行する短距離弾道ミサイルや、低空飛行する巡航ミサイルは、迎撃を困難にし、防衛体制の強化が求められています。
日本政府は、北朝鮮の度重なるミサイル発射に対し、情報収集・分析を強化し、米国や韓国との連携を深めています。また、ミサイル防衛システムの強化や、国民への迅速な情報提供を通じて、国民の安全を確保するための取り組みを進めています。
北朝鮮による今回のミサイル発射は、核戦力の即応性と攻撃能力の向上を目的としたものであり、米韓の軍事演習への対抗措置として位置づけられています。また、ロシアとの軍事協力を背景に、兵器の性能向上や輸出促進を図る意図もあるとみられます。このような北朝鮮の動向は、地域の安全保障に深刻な影響を及ぼしており、日本を含む関係国は、引き続き警戒を強め、対応を検討する必要があります。