
中国製EVに潜む“情報漏洩リスク” 英国で警戒強まる
~防衛産業が社員に「スマホ接続しないで」と注意喚起~
イギリスで、中国製の電気自動車(EV)に対するセキュリティ面での不安が急速に広がっている。とくに防衛産業を中心に、社員に「中国製EVにスマートフォンをつながないように」という通達が出されていると、複数の英メディアが報じている。
背景には、「中国製EVを通じて情報が漏れるのではないか」という懸念がある。車両に内蔵されたマイク、カメラ、Wi-Fiといった通信機能が、ハッカーや国家レベルの情報収集活動に利用される可能性があるからだ。
EVの進化が“リスク”に変わる瞬間
もともと、EVがインターネットに接続されているのは、車のソフトウェアを遠隔で更新したり、トラブルを迅速に修正するため。わざわざディーラーへ足を運ばずに済む便利な機能として、多くのユーザーに歓迎されてきた。
しかしその便利さが裏目に出ることもある。たとえば、車にスマートフォンを接続すると、連絡先、位置情報、メール履歴といった個人データが車側に保存されることがある。そこに、通信機能を通じて“第三者”がアクセスする余地が生まれてしまうのだ。
英国『ガーディアン』紙は、「EVはハッカーにとって格好の標的になり得る」と警鐘を鳴らす専門家のコメントを掲載。「とくに防衛関連の職員や政府関係者は注意を払うべきだ」と呼びかけている。
なぜ“中国製”が警戒されるのか
中国製EVがとくに問題視されるのには理由がある。2017年に施行された中国の「国家情報法」によって、中国国内の企業は政府からの情報提供要請に応じる義務を負っている。つまり、民間企業であっても、国家の情報活動に協力せざるを得ない立場にあるのだ。
この法律を根拠に、各国は中国製通信機器やアプリの使用に慎重になってきた。今回のEVも、同じ文脈で懸念されている。
実際、EV業界で急速に存在感を増す中国メーカー、BYD(比亜迪)やMG(名爵)などのブランドが、英国市場でシェアを伸ばしている。安価で高性能なモデルが人気を集めており、2030年までには英国EV市場の4分の1を中国製が占めると予測されている。
防衛企業の実際の動きとは
報道によると、英国内の複数の防衛関連企業が、自社社員に対して明確なガイドラインを設け始めた。たとえば、「中国製EVに個人用または業務用スマートフォンを接続しないこと」、「可能であれば社有車として中国製EVの使用は避けること」といった注意喚起が出されているという。
また、一部の防衛施設では、中国製EVが構内に入ること自体が制限されているとも報じられている。
英国政府も、この問題を無視できない状況だ。国防省は、EVを含めた「スマート機器」の脆弱性について独自に調査を進めており、今後より具体的な規制やガイドラインが設けられる可能性もある。
情報化社会と“静かな戦い”
EVの普及は社会に多くの恩恵をもたらしている。だが、同時に私たちは「便利さ」の裏側にあるリスクとどう向き合うかを問われている。
とりわけ防衛、政府関係、インフラなど機密性の高い業務に関わる人々にとって、日常の何気ない行動が“情報の穴”になることがある。自動車がただの移動手段ではなく、ネットワークにつながる「端末」になった今、その危機意識は欠かせない。
英紙『ガーディアン』に登場したサイバーセキュリティ専門家はこう述べている。
「サイバー戦争は、もはや戦場ではなく、あなたの車の中でも起きているのです」