中国、南シナ海の小砂州を掌握と主張 フィリピン反発で緊張激化

中国海警局がサンディー礁を「掌握」 黒ずくめの職員が国旗掲揚

中国国営メディアの中国中央電視台(CCTV)は4月26日、南シナ海に浮かぶ小さな砂州「サンディー礁」(鉄線礁)において、中国海警局の職員が「海洋管理を実施」し、「主権的管轄権を行使した」と報じた。CCTVは、黒い服に身を包んだ4人の職員が中国国旗を掲げる様子を映した画像も公開。これにより、中国側はサンディー礁の実効支配を誇示した格好だ。

南沙(英語名スプラトリー)諸島に属するこのサンディー礁は、フィリピン軍が拠点を置くパグアサ島(英語名ティトゥ島)からわずか数十キロの位置にある。現在、面積約200平方メートルに過ぎないこの砂州に、中国が恒久的施設を建設したという情報はないものの、今回の動きは領有権問題を巡る新たな火種となりつつある。

なお、報道によると、海警局の職員らは短時間の滞在後にサンディー礁を離れたとされている。しかし、フィリピン側では強い警戒感が広がっている。

フィリピンが対抗措置 旗掲揚作戦で主権アピール

これに対抗する形で、フィリピン政府は翌27日、南シナ海の複数の砂州に当局者を上陸させ、フィリピン国旗を掲げる作戦を展開した。フィリピンの「西フィリピン海タスクフォース」(NTF-WPS)は声明で、砂州の一つから914メートルの距離で中国海警局の船1隻と、中国の海上民兵船7隻を確認したと発表。「不法なプレゼンス」だとして非難した。

フィリピン政府は、「この作戦は西フィリピン海(南シナ海)における主権と管轄権を守るという我々の不動の決意を示すものだ」と強調。旗の掲揚は、サンディー礁を含むかどうかは不明だが、領有権を巡る対立がますます激しくなっていることは間違いない。

フィリピン外務省は、国際法に基づく自国の権利を主張し続ける姿勢を鮮明にしており、中国の行動に対して国際社会に支援を求める方針だ。

アメリカが懸念表明 バリカタン演習中に緊張高まる

アメリカ政府もこの動きを深刻視している。ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)ジェイムズ・ヒューイット報道官は、「もし報道が事実であれば、地域の安定を脅かし、国際法に違反する極めて懸念すべき行為だ」と声明を出した。また、アメリカは「パートナー諸国と緊密に協議している」とし、南シナ海情勢への関与を強める姿勢を示した。

現在、米軍とフィリピン軍は、毎年恒例の大規模合同演習「バリカタン演習」を実施中である。約1万7000人の兵士が参加し、戦争を想定したシナリオで訓練を行っている。特に今回は、米海兵隊の防空統合システムによる実弾訓練が行われ、無人地対艦ミサイル発射車両NMESISも登場。フィリピン北部沖合では、ミサイル発射訓練も実施されるなど、例年以上に軍事色が濃い。

中国政府は、こうした米比合同軍事演習を「挑発行為」だと激しく非難しており、今回のサンディー礁掌握を演習への対抗措置と見る向きもある。

南シナ海情勢の行方 「九段線」主張で中国孤立も

南シナ海では、長年にわたり領有権を巡る争いが続いている。中国は「九段線」と呼ばれる曖昧な境界線を引き、南シナ海の大部分に対する領有権を主張。海南島から数百キロにわたる広大な海域を既成事実化するため、人工島の造成、軍事施設の建設、艦船のパトロールなどを続けてきた。

しかしこの「九段線」については、2016年にフィリピンが提起した南シナ海仲裁裁判で、国際仲裁裁判所(ハーグ)により否定されている。裁判所は、中国の歴史的権利主張に法的根拠がないと断定し、フィリピンに有利な判断を下した。それにもかかわらず、中国はこの裁定を「無効」として無視し続けており、国際的孤立を深めている。

南シナ海を巡る主権を主張しているのは、中国とフィリピンだけではない。ヴェトナム、台湾、マレーシア、ブルネイも領有権を訴えており、今後も緊張が収まる気配はない。

アナリストたちは、今回のサンディー礁を巡る一連の動きが、南シナ海の軍事化をさらに加速させる恐れがあると警鐘を鳴らしている。

  • 中国が南シナ海のサンディー礁で主権的管轄権を行使と主張
  • フィリピンが対抗して国旗掲揚、米国も深刻な懸念表明
  • 米比合同演習中の中国の動きに、国際社会が警戒強める
  • 南シナ海の「九段線」問題、今後も緊張拡大の恐れ

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


おすすめ記事

  1. 全従業員をリストラ通告「夢の電池」開発企業に異変 開発データ消失の恐れも 福井県の全樹脂電池…
  2. 行き過ぎた多様性の問題点 多様性(ダイバーシティ)の推進は、現代社会において重要な課題として…
  3. 道路建設は私たちの生活を支える重要なインフラです。しかし、新しい道路が完成するまでには、通常15年…
  4. 近年、全樹脂電池技術に関する機微情報が中国企業に流出した疑惑が浮上し、経済安全保障上の重大な問題と…
  5. 北海道釧路市では、太陽光発電所の建設が急速に進んでおり、再生可能エネルギーの普及と自然環境の保護を…

新着記事

  1. 富士山から続けて救助 日本のシンボル、富士山で信じられない事態が起きた。4月末、東京都内に住…
  2. JERAがアラスカLNGを調査 供給網の多様化でエネルギー安保を強化へ 日本最大の電力事業者…
  3. 中国海警局がサンディー礁を「掌握」 黒ずくめの職員が国旗掲揚 中国国営メディアの中国中央電視…
  4. 経済危機が引き金となった中国人の国外脱出、日本も対象に アメリカとの厳しい関税戦争により、中…
  5. 【中国の融資対象卒業を要求】米財務長官、アジア開発銀行に圧力 日本も同調姿勢 米国、対中融資…
  6. 南海トラフ巨大地震の被害想定に反応 在日中国大使館が防災対策を促す 南海トラフ巨大地震による…
  7. 狭い空間でのストーブ利用、やっと国が指針整備 急増する利用者に応える 総務省消防庁はこのほど…
  8. コメ農家「時給10円」説のカラクリ 「コメ農家の時給は10円しかない」。 そんな数字を…
  9. アメリカのドナルド・トランプ大統領は4月25日、米誌『タイム』とのインタビューで、中国の習近平国家…
  10. 【インバウンドの光と影】 見過ごされる「オーバーツーリズム損失」――京都・愛宕念仏寺で起きた異変か…
ページ上部へ戻る