各国で進むベーシックインカム実証実験、無条件の支給が労働意欲を損なわず生活満足度と社会参加を高める結果に

最低所得補償で社会活動活発に、労働意欲減退せず ドイツ研究所

無条件の支援が生む変化:世界各地で進むベーシックインカムの実証実験

近年、世界各地で注目を集めている「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)」は、すべての人に無条件で一定額の現金を定期的に支給する制度です。この制度が人々の生活や社会にどのような影響を与えるのか、各国で実証実験が行われています。今回は、ドイツをはじめとする各国の取り組みをご紹介します。

ドイツ:社会活動の活性化と生活満足度の向上

ドイツ経済研究所(DIW)が2020年から3年間にわたって実施した実験では、107人に月額1,200ユーロ(約19万円)を無条件で支給し、1,580人の非受給者と比較しました。その結果、受給者の労働意欲に大きな変化は見られず、生活満足度が高まり、社会活動に費やす時間が週平均で約4時間多いことが確認されました。研究者は、金銭的な余裕が社会活動の増加に寄与していると分析しています。

フィンランド:幸福度の向上と経済的安心感

2017年から2018年にかけて、フィンランドでは2,000人の失業者に月額560ユーロ(約7万円)を無条件で支給する実験が行われました。結果として、受給者は非受給者に比べて生活満足度が高く、精神的ストレスが少ないことが報告されました。雇用への影響は限定的でしたが、経済的な安心感と心理的な幸福度の向上が確認されました。

ケニア:貧困層への長期的な支援

非営利団体GiveDirectlyが2016年からケニアで実施している世界最大かつ最長のUBI実験では、極度の貧困家庭に無条件で現金を支給しています。参加者は、支給された現金を基本的なニーズの充足や起業に活用し、経済的な回復力を高めています。このプログラムでは、参加者に最長12年間現金を支給する計画です。

アメリカ:多様な地域での取り組み

アメリカでは、カリフォルニア州ロサンゼルス市が2021年に約3,200世帯を対象に、毎月1,000ドルを1年間支給する実験を開始しました。また、OpenAIのサム・アルトマン氏が関わるOpenResearchは、3年間にわたり貧困層の米国人1,000人に毎月1,000ドルを無条件で給付する大規模な実験を行い、受給者の生活や行動に与える影響を調査しています。

イギリス:地域主導の小規模実験

2023年6月、イングランド初のベーシックインカムの実証実験が発表されました。この実験では、30人に月額1,600ポンド(約29万円)を2年間支給する、コミュニティ主導のプロジェクトです。地域住民が主体となり、自立と生活の保障、健康の促進、犯罪の減少などを期待しています。

オランダ:コミュニティとのつながりを重視

オランダでは2016年から複数都市で導入実験が行われており、政府が保障するものだけでなく、民間団体が支給するものまで存在します。その中でも注目されるのが、現在3,000人にベーシックインカムを支給し、「公平で包括的な社会」を提案する「Collectief Kapitaal(コレクティブキャピタル)」です。この活動では、経済的な支援だけでなく、コミュニティとのつながりを重視しています。


各国で行われているベーシックインカムの実証実験は、労働意欲の維持、生活満足度の向上、経済的な安心感の提供など、さまざまな効果を示しています。一方で、財源の確保や制度設計の課題も存在します。今後、これらの実験結果を踏まえ、より良い社会保障制度の構築に向けた議論が進むことが期待されます。

最低所得補償で社会活動活発に、労働意欲減退せず ドイツ研究所

関連記事

おすすめ記事

  1. 道路建設は私たちの生活を支える重要なインフラです。しかし、新しい道路が完成するまでには、通常15年…
  2. 中国旗と宮崎の水源
    外国資本が宮崎の森林717haを取得 中国語話す代表に住民や議会から不安の声 宮崎県都城…
  3. 米国、輸入自動車に25%の関税を正式発表 米国のドナルド・トランプ大統領は3月26日、輸入自…
  4. 中国の尖閣諸島調査船活動に日本が強く抗議 国際法違反を指摘 沖縄県・尖閣諸島周辺で中国の海洋…
  5. 全従業員をリストラ通告「夢の電池」開発企業に異変 開発データ消失の恐れも 福井県の全樹脂電池…

新着記事

  1. 米ペンシルベニア州USスチール工場で爆発 死者2人・負傷10人 日本製鉄傘下で発生 米国東部…
  2. 日本移住で大学まで学費無料?中国で密かに広がる“教育支援”悪用の動き 厚生労働省の統計によれ…
  3. 日米関係に新たな火種か 米国が日本製品に15%の追加関税を発動 「合意」との齟齬に懸念広がる …
  4. 石破政権に「ネット言論統制」疑惑 削除要請の根拠示さず批判拡大 参院選を終えたばかりの自民党…
  5. CIA資金提供疑惑と河野洋平氏の非公開要請 戦後最大級の「政治とカネ」問題が再燃 冷戦期、米…
  6. 政治と税制の透明性に関する新たな提起:マイナンバー・インボイスと政治献金の「紐づけ」へ 制度…
  7. トランプ氏、対日15%関税に署名 カナダには35% 7日後に発動へ 米国のトランプ大統領は7…
  8. 外国人ドライバーの事故が増加傾向 免許取得のハードルの低さが安全脅かす 日本で車を運転する外…
  9. 【ベトナム技能実習生の逃亡が最多に】制度のほころびが生む不法滞在と犯罪の連鎖 佐賀県伊万里市…
  10. 野党8党が団結、ガソリン暫定税率の11月廃止へ法案提出へ ガソリン価格の高止まりが続く中、立…
ページ上部へ戻る