習近平主席、「近隣国との運命共同体」構築を指示 米中対立を背景にアジアで主導権狙う

習主席「近隣国との運命共同体」構築を指示 トランプ関税に対抗、中国の地域戦略が本格化

中国の習近平国家主席が、アジアを中心とする周辺国との関係強化に向けて、「運命共同体」の構築を直接指示したことが明らかになった。これは中国の国営通信・新華社が4月9日に報じたもので、共産党の最高指導部が参加した重要会議の場での発言として伝えられている。

外交分野において国家主席が個別の方針を明示的に指示し、その内容が公表されるのは極めて異例だ。背景には、米国のトランプ前政権が再び打ち出した保護主義的な通商政策があるとみられ、中国は地域諸国との結束を強めることで国際的な孤立回避と経済的主導権の確保を狙っている。

アジア外交の再構築に乗り出す中国

今回の会議は4月8日と9日の2日間、北京市内で開催された。出席者には李強首相をはじめとする共産党政治局常務委員の全員に加え、韓正国家副主席や王毅外相も名を連ねた。

習主席はこの会議で、「中国と周辺諸国の関係はこれまでで最も良好な時期にある」と強調。その上で、グローバルな地政学的変化が近隣地域にも直接的な影響を及ぼしていると指摘し、今こそ「運命共同体」という考え方を現実の政策として具現化すべき時であると訴えた。

具体的な国名こそ示さなかったが、米中の影響力争いが激化している東南アジア各国、さらに「一帯一路」構想を通じて結びつきを強めてきた中央アジア諸国が念頭にあると見られる。

供給網の再構築も視野に

会議では、経済連携の要としてサプライチェーンの強化も議題に挙がった。中国はこれまで「世界の工場」として機能してきたが、米中対立や地政学リスクの高まりを受け、東南アジアなどへの生産分散が進んでいる。

そうした流れを逆手に取り、中国は“共栄共存”の名のもとに域内での供給網を再構築しようとしている。東南アジア諸国と相互依存関係を強化し、米国による経済包囲網に対抗する構えだ。

東南アジア3カ国を訪問予定

香港メディアによると、習主席は今月中にベトナム、マレーシア、カンボジアの3カ国を訪問する見通しだ。いずれも「一帯一路」構想の枠組みの中でインフラ投資を受けており、政治的にも経済的にも中国との結びつきが強い。

今回の訪問は、米国のトランプ前政権が掲げた高関税政策や対外援助の見直しが続くなかで、中国が「グローバルサウスの代表」として途上国との連帯をアピールする狙いもあるとされる。

特にマレーシアでは、最大の港湾インフラ計画である「マラッカ・ゲートウェイ」が中国主導で進んでおり、地政学的にも中国にとって重要な足がかりとなっている。

「運命共同体」構想とは何か

習氏が提唱する「運命共同体(Community of Shared Future)」とは、単なる経済協力を超えた、政治・安全保障・文化に至る包括的なパートナーシップを指す。近年では中国が国際場面で多用するキーワードの一つだ。

2021年には中国とASEANが「包括的戦略パートナーシップ」を締結し、域内安定と経済連携の深化を確認。今回の発言はその延長線上にあるが、米中関係のさらなる悪化を受けて、より踏み込んだ政策転換のシグナルとも読み取れる。

中国の真意と国際社会の視線

中国が「協力強化」を呼びかける一方で、国際社会は警戒感を強めている。南シナ海での軍事的影響力の拡大、人権問題などを背景に、ASEAN諸国の間でも「中国依存への不安」がくすぶる。

また、習氏の演説では“自由で開かれたインド太平洋”という米日などが掲げる枠組みへの対抗心もにじんだ。外交上は「協調」を掲げつつも、実質的には影響力争いが今後さらに激化することが予想される。

習外交の次の一手に注目

今回の「近隣国との運命共同体構築」指示は、習近平体制における対外戦略の大きな転換点となりうる。トランプ前大統領の復権が現実味を帯びる中、中国はアジアでの地盤固めを急いでいる。

外交・経済の両面で「脱アメリカ依存」を模索する一方、途上国支援や経済連携の枠組みを通じた“ソフトパワー”の拡大を目指す姿勢は明確だ。今後、どのような形で「運命共同体」が具体化されていくのか、国際社会の目が注がれている。

「近隣国との協力」指示 トランプ米政権念頭に―中国主席

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