
「今こそアメリカの利益を取り戻す時だ」――トランプ米大統領はそう宣言し、中国からの輸入品に対して前例のない“104%関税”を発動した。日米時間の4月9日午後1時1分(米東部時間午前0時1分)、新たな通商戦争の幕が切って落とされた。
米国と中国。世界のトップを争う経済大国同士の衝突は、単なる関税の応酬にとどまらない。米国側は「中国の不公正な貿易慣行に終止符を打つ」としているが、そこには国内産業の保護、選挙公約の実現、そして“強いアメリカ”を演出するという政治的思惑も透けて見える。
今回の関税措置は、一部のハイテク製品や鉄鋼、化学品など幅広い品目を対象にしており、企業だけでなく一般消費者にも影響が及ぶ可能性がある。ワシントンの通商担当者は「これは交渉のための圧力ではなく、本気の制裁だ」と語っており、トランプ氏の本気度がうかがえる。
一方で、中国も決して引く姿勢は見せていない。同日、北京は即座に報復関税を発表。アメリカ産の農産品や自動車、航空機などを対象に段階的な追加関税を課すとし、同時に人民元の為替レートを引き下げて輸出企業の競争力を下支えする姿勢を強調した。
「米国が関税という武器を使うなら、中国はすべての手段を使って応戦する」。中国商務省の報道官は、記者会見で表情を変えずこう言い切った。中国国内でもこの対立に対する国民の関心は高く、「国家の尊厳を守れ」という声がSNSを中心に広がっている。
マーケットの反応は敏感だ。アジアの株式市場は軒並み下落。東京では日経平均が一時1,400円超の大幅安となり、終値も3.5%の下落。韓国、台湾、シンガポールなども同様に売りが優勢だった。ニューヨーク市場でもS&P500やナスダックが下げ幅を拡大し、安全資産とされる金価格が上昇した。
国際通貨基金(IMF)や世界銀行などは、こうした「経済の武器化」が世界の成長を鈍化させかねないと懸念を示している。米国内でも、小売業界や農業団体から「コスト増が消費者価格に直撃する」「農産物の輸出先を失えば立ち直れない」といった悲鳴が上がっている。
さらに注目すべきは、世界70カ国以上が米国に対して個別交渉を申し入れているという点だ。関税回避のための例外措置を求める動きで、各国の政府関係者が水面下でワシントンと交渉を重ねている。ホワイトハウスは「国益にかなう取引であれば柔軟に対応する」としているが、いずれにせよトランプ氏の主導権が握られている状況だ。
今回の関税は、単なる経済対策ではなく、地政学的な影響も持つ。米中の対立が長期化すれば、台湾情勢や東アジアの安保環境にも波及する可能性がある。実際、中国では「この先、経済よりも国家主権を守ることが最優先になる」とする専門家の声も出ている。
トランプ氏は、「これは始まりに過ぎない」とも語っている。もし今後さらに関税が拡大されれば、企業の投資判断やサプライチェーンの再構築が迫られ、グローバル経済に長期的な混乱をもたらすだろう。
アメリカと中国――ふたつの大国が真っ向からぶつかり合う時、世界は無傷ではいられない。
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