
米国のドナルド・トランプ大統領は7日、中国が米国製品への報復関税を撤回しない場合、追加で50%の関税を課すと警告した。発表は自身のSNSで行われ、発効は早ければ9日にも開始される可能性があるという。対象となるのは中国からの全輸入品で、これにより総関税率は一部品目で104%に達する見通しだ。
今回の発言は、トランプ氏が掲げる「アメリカ第一」の貿易政策をさらに先鋭化させるもので、2025年11月の大統領選挙をにらんだ国内向けアピールの一環とも見られる。かねてから中国への対抗姿勢を鮮明にしてきたトランプ氏だが、政権復帰後は一層強硬な姿勢を強めている。
「中国が4月8日までに報復関税を撤回しなければ、直ちに50%の追加関税を発動する」。トランプ大統領は7日朝、X(旧ツイッター)にこのように投稿した。そのうえで「中国との貿易交渉は終了だ。米国はもはや搾取されない」と述べ、事実上の交渉打ち切りを宣言した。
市場は即座に反応、株価急落
この発表を受けて、ニューヨーク株式市場は荒れ模様となった。ダウ平均株価は一時1,300ドル超下落し、終値は前日比349ドル安の37,966ドル。S&P500は0.2%下落し、一時的に弱気相場入りの兆しを見せた。ナスダック100は辛うじてプラスを維持したが、全体としては「関税ショック」に市場が過敏に反応した格好だ。
米国内ではこの発表に対し、歓迎と懸念の声が交錯している。製造業を中心とする一部の支持層からは「中国に対して譲歩するべきではない」とする支持の声が上がる一方、経済界からはインフレ懸念や供給網の混乱を危惧する声が噴出している。
「米国の消費者は、結局このコストを負担することになるだろう」。大手投資銀行のチーフエコノミストは、急激な関税引き上げが中間層の家計を圧迫しかねないと指摘する。
中国は「決して屈しない」と反発
一方、中国政府は米国の姿勢に対し、強く反発している。中国商務省は8日、「米国の一方的な追加関税は国際貿易ルールに違反する」と非難。「中国はいかなる脅迫にも屈しない。必要な対抗措置を講じる」と強い口調で声明を発表した。
両国の貿易摩擦は、2018年から始まった「米中貿易戦争」以来の激しい局面を迎えている。一時は関税の応酬が沈静化したかに見えたが、トランプ政権の再登場により緊張が再燃。しかも今回は、関税率が過去最高水準に達する可能性もあることから、米中関係は新たな臨界点に達しつつある。
EUやアジア諸国にも波及
今回の米中対立は、第三国にも影響を及ぼし始めている。EU(欧州連合)はこれを機に、工業製品の関税撤廃を目指す「ゼロ・フォー・ゼロ」政策を再提案。だが、米国はVAT(付加価値税)や環境規制などを「非関税障壁」と見なしており、交渉は難航が予想される。
アジア諸国も巻き込まれつつある。日本や韓国は、米中の板挟み状態にあり、特に輸出企業の多いこれらの国々では、政策対応に苦慮している。日本政府関係者は「いかに関税の影響を回避し、国内産業を守るかが問われる」と語る。
また、ベトナムやインドといった新興国は、サプライチェーンの再編に乗じて米国市場への輸出を拡大する好機と捉える一方で、突如の関税引き上げに巻き込まれるリスクも抱えている。
内政的意図も?
背景には、大統領選を目前に控えた国内政治の事情があるとの見方も根強い。トランプ氏は、2020年の敗北以降も自らの支持層を維持しており、今回の強硬姿勢は「再選に向けたアピール」とする分析もある。
「中国に対して強い姿勢を示せば、経済的損失が出たとしても票にはなる」。米シンクタンクの研究員は、こうしたトランプ氏の政治的計算を指摘する。事実、米国内の製造業地帯では、同氏の支持率は依然として高い水準を維持している。
「新冷戦」色も強まる
今回の通商摩擦は、単なる経済問題にとどまらず、米中の覇権争いというより深い構図も背景にある。貿易、技術、軍事、安全保障……あらゆる分野で米中の対立は先鋭化しており、今回の関税問題はその一断面にすぎない。
こうしたなか、国際社会には「新冷戦」の様相が漂い始めている。アジア太平洋地域では、中国の影響力拡大に対抗して日米豪印による「クアッド」など安全保障連携も進んでおり、経済と軍事が複雑に絡む状況だ。
今後、米中の関税応酬が一段と激化すれば、世界経済全体が深刻な影響を受けることは避けられない。各国政府と企業は、引き続き米中の動向に細心の注意を払いながら、対策を講じる必要がある。