
米中の貿易摩擦が、再び激しい火花を散らしている。トランプ米政権が中国からの輸入品に大幅な追加関税を課す措置を打ち出したことを受けて、中国政府は4日、米国産品のほぼすべてを対象にした報復関税を発表した。対抗措置としては過去最大規模となる。
「米国が貿易戦争に固執するのであれば、中国は最後まで付き合う」。中国外務省の林剣・副報道局長が先月、記者会見でこう強調した言葉通り、習近平政権は一歩も引かない姿勢を明確に打ち出した。
対抗措置を一気に拡大
トランプ政権は今年1月の政権発足以降、中国製の原材料が米国内のフェンタニル乱用を助長していると非難し、その“対抗措置”として、先月末に中国からの輸入品に平均20~34%の追加関税を発動した。これを受けた中国は、これまで一部の農産物や機械製品などに限定していた報復関税の範囲を、ついに「全品目」へと拡大。関税率も米国と同水準に引き上げる。
この動きについて、中国財政省は「米側の不当な措置に対する正当な防衛」と説明。商務省も「米国による国際貿易ルールの明白な違反行為に対し、我々は断固として対処する」とする声明を発表した。また、中国政府はこの問題を世界貿易機関(WTO)に正式に提訴し、国際社会での正当性を主張している。
「弱腰批判」への内向けアピールも
中国が今回、大規模な報復措置に踏み切った背景には、国内の世論もある。これまでの慎重な対応が「弱腰」と受け取られかねないとの懸念が中国共産党内で広がっていたという。党関係者の一人は、「これ以上、米国に譲歩を続けることは国民の信頼を失うことにつながる」と語る。
米中の経済関係が複雑に絡み合う中で、あくまで対話による解決を模索しつつも、「主権や国家の尊厳に関わる問題では一歩も引かない」という姿勢が強調されている。
米中間の対話は継続も「譲歩なき応酬」
実際、3月下旬には中国の何立峰副首相と、米通商代表部(USTR)のグリア代表がビデオ会談を実施。中国側は「関税引き上げは双方に損失をもたらす」と懸念を伝えたが、会談後の発表からは具体的な歩み寄りの兆しは見えなかった。
北京の外交筋は、「中国は対米対話の窓は閉じていない」としつつも、「圧力には圧力で応じる」と、現状では妥協よりも報復の論理が優先されていることを明かす。
レアアース輸出にも制限 米ハイテク産業に影響か
さらに中国は、ハイテク産業の要となるレアアース7品目についても輸出制限に踏み切る。スマートフォンやEV、自動車部品に不可欠な材料であり、米国内の産業界への影響は避けられない。米企業からはすでに、「価格上昇や調達難による生産遅延が現実化する」との懸念の声が上がっている。
トランプ大統領は4日、自身のSNSに「中国は間違った決断をした。彼らは明らかに追い込まれている」と投稿し、強硬な姿勢を崩していない。選挙を控えた大統領にとって、「対中強硬」は支持基盤への訴求力が強く、政治的な得点源ともなっている。
株価は急落、世界経済への影響も
金融市場も即座に反応した。4日のニューヨーク株式市場では、ダウ平均が前日比で2231ドル安と急落。米中関税戦争の激化による企業収益への悪影響や、世界経済の先行き不透明感が重なり、投資家心理が一気に冷え込んだ。
FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、記者会見で「今回の貿易摩擦が物価や経済活動に与える影響については精査が必要だ」と述べ、利下げも含めた金融政策の見直しを示唆した。これに対しトランプ大統領は、「金利を下げる絶好の機会だ」と主張し、政府とFRBの間での政策スタンスのずれも浮き彫りとなっている。
東南アジア諸国にも波及
中国以外にも、東南アジア諸国が今回の米国の追加関税の余波を受けている。ベトナム、タイ、カンボジアなども米国の制裁対象となり、一部の製品に高関税が課されている。これらの国々は今のところ報復措置を控えているものの、貿易の不確実性が経済にじわじわと影を落としている。
ASEAN加盟国の政府関係者は、「米中の対立が長期化すれば、サプライチェーンの混乱は避けられない」として、米国との二国間交渉を模索する動きを強めている。
今後の焦点は“交渉の落とし所”
今回の関税応酬は、単なる経済対立にとどまらず、国家の威信や政治的駆け引きが複雑に絡み合った様相を呈している。中国は「最後まで付き合う」と強気の構えを見せるが、その一方で経済成長の減速という現実とも向き合わなければならない。
米国側も、インフレ抑制と景気後退回避という二律背反の課題を抱える中で、強硬路線がどこまで持続可能かは不透明だ。
米中間の対立は、単なる関税の問題にとどまらず、国際秩序や安全保障にも波及しかねない。両国がどこかで“落とし所”を見いだせるかどうかが、今後の世界経済を占う重要な鍵となる。