
海上自衛隊(海自)の潜水服調達を巡り、特定企業が有利になるような条件設定がされていたとの疑惑が浮上しています。入札における透明性が求められる中、この問題は調達プロセスへの信頼を揺るがすものとして注目を集めています。具体的には、海自が設定した潜水服の仕様書に、ある企業の製品にしか適合しないような詳細な条件が盛り込まれていたというのです。
仕様書に盛り込まれた特定の条件
海上幕僚監部装備需品課が令和5年12月に公表した潜水服の共通仕様書には、裏地の素材や色、糸の太さ、重さなどに至るまで非常に細かい条件が設定されています。驚くべきことに、これらの条件にぴったり合致する製品は、横浜市に本社を構える潜水服メーカー「シンカテック」のみであったというのです。業界関係者によると、シンカテックが扱っていた「マルチエラステックス」という素材が、仕様書に記載された条件をすべて満たしており、事実上、シンカテックの製品以外では入札に応じることが難しい状況だったと言います。
入札結果と競争環境
実際、令和6年1月から11月にかけて実施された潜水服の入札結果を見てみると、海自が発表した契約額100万円以上の入札のうち、7件がシンカテックによって落札されています。この状況に対し、他の業者からは不満の声が上がっています。というのも、仕様書に記載された裏地を新たに調達するには、約1,000万円の追加費用がかかり、これでは小規模な業者は参入できないのが実情です。このような条件設定が、事実上の「シンカテック優遇」を生んでいるとの批判が広がっています。
海自の見解と業界の反応
海自は、仕様書における細かな条件設定について「特定企業を優遇する意図はない」と繰り返し主張しています。その上で、可動性や着心地といった性能面を重視した結果だとしています。しかし、業界の声は異なります。「このような詳細な条件は、製品の性能には直接的に関係ない」との意見が多く、仕様書の内容に疑問を呈する声が高まっています。さらに、海自の説明によれば、同等品申請という条項があったにも関わらず、他の業者が提出した製品が「同等品」として認められない事例が多かったことも問題視されています。
公正取引委員会の指摘
公正取引委員会の関係者は、今回の仕様書に関して「他の企業が参入するのを事実上難しくするような条件が設定されているのであれば、それは問題だ」と指摘しています。入札の公正性が確保されなければ、業者間の競争が制限され、最終的には調達コストの上昇を招く恐れがあるため、仕様書の内容が公正であるかどうかの再評価が求められています。
装備品の重要性を語る隊員
潜水服が求める性能について、かつて潜水部隊で勤務していた隊員は「手足を素早く入れられる機動性」や「関節部分がスムーズに伸びる可動性」の重要性を挙げています。水中での訓練や任務では、潜水服の耐久性や乾燥の速さも重要な要素となります。特に、訓練で毎日使用するため、着心地や破れにくさは命に関わる問題です。このような厳しい条件を満たすためには、高性能な素材が必要だというのが現場の声です。
入札の透明性と公平性
しかし、潜水服の仕様書が特定企業に有利な形で設定されていたことは、入札の透明性と公平性に疑問を投げかける問題です。海自の担当者は、仕様書の条件が「必須の要件」であるとし、一定の理由を説明していますが、業界の反発を無視できません。入札における競争が公平でなければ、最終的に調達コストが不当に高くなるリスクもあります。
結論:公平な競争環境の確保
今回の潜水服調達における疑惑は、単なる業者間の競争問題にとどまらず、調達プロセス全体の公正性を問い直すものです。防衛装備品の調達は、国民の税金を使った重要な業務であり、その過程で公平な競争環境が確保されることは必須です。今後、海自はより透明性の高い仕様書を作成し、すべての業者が平等に競争できる環境を整備する必要があります。