エネルギー基本計画のパブリックコメントでAI活用が明らかに
政府が原子力発電の最大限活用を掲げたエネルギー基本計画に関するパブリックコメント(意見公募)で、46人の投稿者が合計約3940件もの意見を寄せていたことが経済産業省の調査で明らかになりました。
中でも、生成AIを使って意見を量産したケースが多かったとみられています。寄せられた意見全体のうち約1割がこれに当たり、その大半が原発に反対する内容でした。
AI活用による大量投稿の影響
パブリックコメントは、多様な意見を政策に反映させるための制度です。しかし、生成AIを使った大量投稿が相次ぐと、本来反映されるべき意見が埋もれてしまったり、特定の意見が過度に多く見えることで民意が偏っているように受け取られたりする可能性があります。
この問題について、政府は現在のところAIの使用を禁止しておらず、「同じ内容の意見を多数送ること自体は問題ではない」との見解を示しています。
SNSでの組織的投稿も判明
経済産業省は、X(旧Twitter)やLINEで、生成AIを活用してパブリックコメントを作成しているやり取りを確認。
また、投稿数を増やすために複数人がシフトを組んで対応していたケースも見つかりました。具体的には、「水素発電を推進し、原子力発電に反対」「原発再稼働・新設には絶対反対」といった同じ内容の意見が大量に投稿されていたほか、「止めよ 原発」や「腐った 者達」といった偽名を使った投稿も確認されています。
中には、1人で457件もの意見を送ったケースもあったそうです。
過去最多の意見が寄せられたパブリックコメント
昨年12月に経産省がエネルギー基本計画の改定案を発表してから約1カ月の間に集まった意見は4万1421件。これは前回の約7倍で、過去最多となりました。
その後、政府は2月18日にエネルギー基本計画を閣議決定。この改定では、2011年の福島第一原発事故を受けて盛り込まれていた「可能な限り原発依存度を低減する」という表現が削除され、原発活用を推進する姿勢がより明確になりました。
改定案の内容と環境団体の反応
改定案によると、2040年度の電源構成として、再生可能エネルギーを「4~5割程度」、原子力発電を「2割程度」、火力発電を「3~4割程度」とする方針が示されています。
この計画については、環境団体などから「目標が低すぎる」との批判も出ています。例えば、WWFジャパンは「再エネの比率を次の10年間でわずか2~14ポイントしか増やさないのは不十分だ」と指摘しています。
AI活用のルール作りが求められる
こうした意見公募のあり方を巡っては、AIの利用が広がる中でどのように公平性を確保するかが課題となっています。
生成AIを使えば簡単に大量の意見を作成できるため、今後も同様の事例が増える可能性があります。その一方で、パブリックコメントは国民の意見を政策に反映させる貴重な機会であり、AIの活用を全面的に規制すべきかどうかについては議論が分かれています。
市民団体の動きと意見表明の重要性
市民団体の中には、エネルギー政策の策定プロセスにより多くの市民の意見を反映させるべきだと訴える声もあります。
例えば、日本若者協議会は、再生可能エネルギー100%の実現や、公正な社会を目指すべきだとして、パブリックコメントを通じて意見を提出しました。また、「ワタシのミライ」といった団体は、市民から意見を集め、それを分析・発信する活動を続けています。
こうした取り組みが進む一方で、パブリックコメントが適切に機能するためには、単に意見の数を集めるだけでなく、一人ひとりが自身の考えをしっかりと伝えることが大切です。政府も、今後の意見公募においてAIの利用に関するガイドラインを整備するなど、新たなルール作りが求められるかもしれません。
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