
米トランプ氏、最大70%の関税を通告へ 書簡一斉送付で“通告外交”本格化 参院選控える日本にも影響
アメリカのドナルド・トランプ大統領は7月4日、貿易政策の方針転換を示し、関税率を明示した書簡を世界各国に一方的に送付する意向を明らかにした。最大で70%に達する高関税を含む内容になる見通しで、8月1日からの徴収開始が計画されている。アメリカは、4月に発表した「相互関税」政策の適用を進める中で、複雑な協議を省略し、直接通告するスタイルへとシフトする。
この動きは、世界の通商秩序にとって重大な転換点となる可能性があり、日本を含む主要貿易国に対して大きな影響を及ぼすとみられる。特に、7月20日に参議院選挙を控える日本にとって、国内政治との兼ね合いが難しく、交渉対応の柔軟性が問われている。
交渉を飛ばす“通告外交”という戦略
これまで米国は、WTOなどの国際枠組みや二国間の協議を通じて関税水準を決定してきたが、今回の対応はその常識を覆す。アメリカ政府は、書簡という形式を使い、各国に個別に関税率を直接通知し、そのまま徴収に移るという、いわば“関税の一斉通告”とも言える新たなアプローチを採用する。
一度に送る書簡は1日10~12通で、7月9日までにほとんどの主要貿易国へ発送を完了する方針だ。これは、「交渉に時間をかけすぎれば米国が損をする」という発想に基づいたものであり、トランプ氏らしい“効率重視”の発想が背景にある。
今回の通告では、関税率を10%台から70%近くまでの幅で設定することが可能とされ、相手国の過去の対米関税率や貿易収支を踏まえて、段階的に税率が割り当てられる可能性がある。
相互関税政策、いよいよ本格始動へ
トランプ政権が進める「相互関税政策(Reciprocal Tariffs)」は、アメリカが他国から受けている関税水準に応じて、同等またはそれ以上の関税を課すことを目指すもの。4月に発表された際は、市場や各国政府に大きな衝撃を与えた。
ただし、発動までには90日間の猶予期間が設けられており、各国と協議を進める余地も残されていた。その期限が、いよいよ7月9日に迫っており、今回の書簡送付はその最終ステップに位置づけられる。
トランプ氏は、170カ国以上との交渉は非現実的であり、むしろ一方的な通達によって交渉の主導権を握ることができると判断したとみられている。
日本との交渉は停滞の懸念
日本は米国にとって重要な同盟国であり、貿易相手でもあるが、7月20日に参議院選挙を控えており、政府が大きな譲歩や妥協を示すことは政治的に困難な状況だ。こうした国内事情を踏まえ、米政府側も「今は静観する」とのスタンスを示しているが、関税通知が日本にも届けば、政治的波紋は避けられない。
特に、自動車や農産品など、日本の対米輸出の柱となる分野が標的となる可能性があり、選挙後すぐに交渉が本格化することは確実視されている。
また、日本国内では、アメリカの一方的な通告方式に対して「国際ルールに反する」との批判も強く、今後の外交交渉は緊張感を持って進められることになるだろう。
国際社会に広がる警戒感
アメリカの書簡外交は、日本だけでなく、韓国や欧州連合(EU)など主要な経済圏にも広く波紋を広げている。韓国は、米政府に対して猶予の延長を要請する準備を進めており、EUも独自の対応策を協議中だ。
これらの国々は、米国との関係悪化を回避したい一方で、自国産業を守るために報復措置も辞さない姿勢を見せており、国際社会全体が新たな通商戦争に突入する可能性も否定できない。
特に欧州では、「貿易戦争の再来」と警戒する声が多く、WTOのルールや多国間協定を無視した米国の行動が、世界の貿易秩序そのものを揺るがしかねないとの懸念が強まっている。
経済・市場への影響は避けられず
米国の今回の動きに対し、株式市場や為替市場は敏感に反応している。ニューヨーク市場では主要株価が下落傾向となり、ドルは主要通貨に対して軟調に推移。企業側も、関税コストの増加による利益圧迫やサプライチェーンの混乱に備える動きが加速している。
消費者への影響も避けられず、輸入品の値上げによる物価上昇が懸念されている。特に電子機器や自動車、日用品など、関税の影響が価格に直結しやすい分野では、早ければ8月以降に価格改定が相次ぐ可能性もある。
今後の注目点
米国の強硬姿勢が続けば、世界は新たな「関税ブロック化」の時代へと突入しかねない。7月9日の猶予期限、8月1日の徴収開始、そして7月20日の日本の参院選――これらの節目が今後の交渉に与える影響は大きい。
日本政府は、選挙後にアメリカとの関係をどのように再構築するのか、明確な戦略を持つ必要がある。輸出産業の命運を握る対米交渉は、単なる貿易問題にとどまらず、経済全体の方向性を左右する重大な外交課題となっている。