
―近畿財務局の方針を一変させた“安倍昭恵氏の一言”とは―
国有地を格安で森友学園に売却した異例の取引をめぐり、これまで「現場の判断」とされてきた構図が、根本から覆されようとしている。
財務省近畿財務局職員だった赤木俊夫さんが公文書改ざんを苦に命を絶った問題で、その妻・赤木雅子さんに新たに開示された文書から、実は財務省本省が最初からこの取引を主導していたことが裏付けられたのだ。
事の核心は、2014年12月8日付の内部メモにある。近畿財務局の管財部長が、財務省理財局の国有財産業務課長との打ち合わせの中で語っていたのは、次のような内容だった。
「本件について、当初は購入が難しいと考えていたので、近畿財務局としては断る方針だった。しかし本省から『定期借地を活用してはどうか』という示唆があり、それに共感して現在に至っている」
この“本省の示唆”という言葉は重い。現場は否定的だった。それが一転、「希望に沿う方向」での交渉に転じる。その背後には、明確な中央の意向があった。
同日、理財局の国有財産企画課長も近畿財務局との協議の中で、「本省が主導した案である」と明言。もはや“忖度”や“現場の裁量”といった言い訳は通用しない。
異例の取引、その舞台裏
森友学園が小学校の用地として豊中市の国有地を借りたいと希望したのは2013年夏。当時、財務局は「定期借地という形なら検討できるかもしれない」と一旦は慎重に対応していたが、翌2014年4月には明確に「資金計画が不透明すぎる」として否定的な立場を取っていた。
だが、そのわずか1ヶ月後の5月には、「希望に沿う方向で調整中」と態度を一変させている。
この豹変のきっかけとして指摘されているのが、2014年4月28日に行われた森友側と近畿財務局の協議だ。
その席上、森友の理事長はこう語ったという。
「安倍昭恵夫人から『いい土地ですから、前に進めてください』というお言葉をいただいた」
さらに、昭恵氏と理事長夫妻が並んで写る写真まで提示されていた。この「夫人の言葉」が、現場にとってどれだけの“圧”だったかは想像に難くない。
にもかかわらず、今回開示された約2000ページに及ぶ文書群には、この日の協議の詳細な記録がなぜか含まれていない。非常に不自然であり、意図的な“抜け”ではないかとの指摘もある。
公文書改ざん、そして赤木さんの死
この国有地売却が国会で問題視されるようになると、財務省は過去の決裁文書を改ざんしていたことが発覚した。
赤木俊夫さんが残した「赤木ファイル」によれば、文書からは昭恵夫人や安倍晋三首相(当時)の名前、さらには鴻池祥肇元防災担当相の記述まで削除されていた。
その改ざんを現場で命じられ、苦悩の末に赤木さんは2018年3月、自ら命を絶った。
その死をきっかけに、ようやくこの問題は「改ざんという犯罪行為を生んだ背景」にまで世論の目が向き始めた。
赤木さんの妻・雅子さんはこう語る。
「夫は“嘘の文書を作らされた”と悔しがっていました。なぜあんなことが起きたのか、その根っこを明らかにしてほしいんです」
その思いに応えるかのように、今回の文書開示で少しずつ、闇の輪郭が浮かび上がってきた。
昭恵氏の影が落としたもの
昭恵夫人が取引に直接関与していたかどうかを示す“決定的証拠”は、まだ表には出ていない。
だが、「いい土地ですから、前に進めてください」という言葉とツーショット写真の提示が、明らかに財務局側の方針転換に影響を与えていたことは、状況証拠として極めて重い。
本省主導で、現場の抵抗をねじ伏せてまで進められた“特別な取引”。
そしてそれを隠蔽するために、国家の記録が書き換えられ、一人の命が失われた。
この問題は、単なる不動産取引の異常さにとどまらない。
国家の仕組みそのものが、政治の都合で歪められ、現場の人間に責任を押しつけた。その構造を直視しなければ、再発防止など夢物語に過ぎない。
真相解明はまだ道半ばだが、今度こそ、「なかったこと」にしてはならない。