
2026年2月8日の衆議院選挙と同時に行われる最高裁判所裁判官の国民審査で、期日前投票が2026年2月1日から始まりました。対象となる裁判官は2人で、弁護士出身の高須順一判事(2025年3月27日就任)と、研究者出身の沖野眞已判事(2025年7月24日就任)です。
国民審査の投票は、知っているようで意外と「癖」があります。辞めさせたいと思う裁判官の欄に「×」を書きます。何も書かなければ「信任(続けてよい)」扱いです。さらに、×以外の記号や文字を書くと無効になるので、迷ったまま適当に何かを書くのが一番もったいない投票になります。
今回の期日前投票が可能になった背景には、国民審査の期日前投票開始日を「投票日の7日前から」と定めるルールがあり、衆院解散から告示までの関係で、これまでの選挙では制度上できなかったケースがあった、という事情があります。 要は「今回はできる」ので、当日に予定がある人ほど、ここで一票を落とさないのが大事です。
国民審査は“最高裁の仕事ぶり”を国民が点検する制度
国民審査は、国会議員を選ぶ選挙と同じ日に、最高裁判所の裁判官がふさわしいかを有権者が判断する仕組みです。制度の性格上、ふだんは注目されにくいのが現実です。実際、国民審査ではこれまで罷免(辞めさせる決定)になった裁判官はいない、という指摘もあります。だからこそ、制度が形だけで終わるかどうかは、有権者の「判断しようとする意思」にかかっています。
ただし、今回の2人は就任から日が浅い。判断材料が少ないのも事実です。そこで大事なのは、ひとつひとつの事件を“細かい法律のテスト”として覚えることではありません。どういう場面で、何を大切にし、どこで線を引く人なのか。そこを、できる範囲でつかむことです。
高須順一判事 「反対意見」を出すタイプか、慎重に寄り添うタイプか
高須判事は弁護士出身で、民事分野の実務と学術の両方を歩いてきた人物です。就任会見でも、法律を一枚岩で決めつけず、当事者の実情を丁寧に見る姿勢が語られています。
まず、2026年1月26日の南御堂(難波別院)の固定資産税をめぐる判断です。寺院と高層ビルが一体になった建物で、参道にあたる部分が「非課税の対象になるか」が争点になりました。多数意見は課税を認めましたが、高須判事は反対意見を述べています。宗教施設の性格を踏まえ、非課税の範囲を狭めることへの疑問を示した形で、ここに「権利や制度趣旨を厳密に守りたい」気質がにじみます。
2026年1月9日には、国有財産の使用をめぐる寄宿舎の事件にも関与しています。これは生活の場と公の財産管理がぶつかるタイプの争いで、単純に白黒がつきにくい分野です。就任直後から、こうした現実の利害が絡む事件に向き合っている点は押さえておきたいところです。
2025年9月26日の「一票の格差」をめぐる訴訟では、最高裁多数意見が合憲と判断した一方で、高須判事はより厳しい見方を示したことが報じられています。投票価値の平等を「できるだけ早く是正すべきだ」という方向に力点を置くのか、それとも「国会の裁量」を広く見るのか。このテーマは政治の土台そのものなので、国民審査で気にする人が多いポイントです。
2025年12月23日の児童買春・児童ポルノをめぐる刑事事件では、条例と法律の関係など、ルールの適用範囲が争点になりやすい分野に関与しています。社会的な嫌悪感が強い事件ほど、感情で押し切らず、手続きとルールの枠組みで判断できるかが問われます。
「ALS患者の嘱託殺人(元医師らの事件)」については、最高裁が上告を退ける判断を出しています。生命と自己決定をめぐる重いテーマで、最高裁がどこまで踏み込むかが注目されました。
ここから先は、「最高裁判事としての判例」だけでなく、本人の経歴として重要な材料です。高須判事は、弁護士時代に“不動産賃料の自動増額条項”をめぐる事件を「思い出深い仕事」として就任会見で語っています。最高裁で口頭弁論まで進み、主張が認められた経験がある、という文脈です。現場の契約トラブルに強いことがうかがえます。
また、法制審議会で民法(債権法)改正の議論に関わってきた点も、性格を映す材料です。社会の取引ルールをどう整えるか、という“制度設計”の側に立った経験が、今の判断に影響していても不思議ではありません。
沖野眞已判事 消費者・信託・手続きに強い研究者が、実務の現場でどう線を引くか
沖野判事は研究者出身で、民法を中心に長く研究してきた人物です。就任会見でも「さまざまな意見に耳を傾け、信頼に応えたい」と述べ、専門外の分野への不安も隠していません。そこが逆に、慎重さとして出るのか、柔軟さとして出るのかが見どころです。
2026年1月20日の「第三者異議(信託)」の事件は、弁護士が依頼人から預かった金銭を信託財産として扱う、といった設計が争点になったものです。最高裁は、信託の目的について合意が成立したと言えるかどうかなど、形式だけでは済まない点を問題にしています。ここは一般の人にも関係があり、要するに「名義や書面だけで“これは預り金だから守られる”とは限らない」という方向のメッセージになりがちです。「日弁連の内規に沿った管理が重要」という論点も、この事件が投げかける現実的な問いとして理解できます。日本弁護士連合会の運用を含め、実務の管理体制が問われるタイプの争いだからです。
2025年12月23日のLPガス(プロパンガス)をめぐる事件では、住宅に設置した設備の費用を、購入者側に請求できるかが争点になりました。最高裁は「請求できない」と判断しており、消費者保護の感覚に近い結論です。暮らしの契約に直結するテーマなので、沖野判事が消費者・契約の分野でどんな目線を持つかを映します。
2025年12月10日には、出所がはっきりしない診療録の証拠能力が争われた事件にも関与しています。事件の中身の好悪とは別に、「手続きの正しさ」をどこまで厳格に見るかが問われるタイプです。
2026年1月14日の「付郵便送達」の事件も同じで、住居不詳の被告人に書類を送ったことにする手続きが有効かが争われました。裁判を止めないための制度ですが、乱用すれば権利侵害にもなり得ます。最高裁は一定条件で有効とし、現実運用を支える方向の判断になっています。
そして、2014年の御嶽山噴火をめぐる国家賠償訴訟では、最高裁が2026年1月21日付で遺族側の上告を退け、敗訴が確定しました。報道では、第三小法廷の判断として伝えられています。この手の事件は「自然災害の予測」と「行政の責任」をどう結びつけるかが難所で、簡単に納得できる結論になりにくい分野です。沖野判事が第三小法廷の裁判官である以上、判断材料として意識する人は多いでしょう。
「一票の格差(参院選)」については、少なくとも沖野判事は2025年11月17日の選挙無効請求事件に関与しており、選挙制度をめぐる争いに最高裁で関わっているのは事実です。ただ、その事件がどの種類の格差訴訟なのかまで断定するなら、判決文や事件概要を確認してからの方が安全です。
有権者が“ちゃんと判断した”と言える最低ライン
正直に言うと、国民審査は放っておくと「空欄=信任」で流れます。仕組みとして、意思表示しない人が多数派になりやすい設計です。だから、賛成でも反対でもいいので、自分の判断を1つだけ形にするのが大事です。
高須判事を見るなら、「反対意見を出してでも投票価値の平等を厳しく守ろうとするのか」「宗教施設の課税などで制度趣旨をどこまで重く見るのか」に注目すると、短時間でも輪郭がつかめます。
沖野判事を見るなら、「消費者契約や信託の争いで、実務の運用をどこまで締めるのか」「手続きの正しさと、裁判を止めない現実運用のバランスをどう取るのか」が分かりやすい軸になります。
最後にもう一度だけ強調します。×を付けない限り、結果は信任に積み上がります。信任したいなら空欄でも同じですが、迷っているなら「何もしない」は判断の放棄として処理されます。その仕様を理解した上で、投票所に向かうのが一番フェアです。
出典まとめ
・国民審査の期日前投票開始(2026年2月1日)と制度説明:(裁判所)
・投票日(2026年2月8日)と国民審査の案内:
・対象2判事の就任日・略歴・主要裁判・就任会見:(裁判所)
・高須判事の主要裁判(南御堂など)と一票の格差関連:(弁護士山中理司のブログ)
・沖野判事の主要裁判(信託、付郵便送達、LPガスなど)と御嶽山訴訟:(裁判所)
・国民審査で罷免例がない旨:(毎日新聞)


















