
フィンランドが永住権取得要件を厳格化 移民統合を優先し“選別”の時代へ
フィンランド政府は6月5日、永住権を得るための条件を大幅に見直す法案を発表した。新たな制度では、申請者に対してこれまで以上に高い言語能力と就労経験が求められ、永住には社会への「統合の証明」が不可欠になる。
今回の法改正は、2026年1月8日に施行される予定で、現在の4年間の継続在留条件が6年に引き上げられるほか、フィンランド語またはスウェーデン語の「十分な習得」と、国内での2年以上の就労実績が新たに義務付けられる。
世界各地で移民問題が深刻化
こうした動きは、フィンランド国内に限ったものではない。ヨーロッパをはじめとする多くの先進国では、近年、移民政策の見直しが急速に進んでいる。背景には、中東やアフリカ、アジアからの大量流入、難民申請の急増、文化摩擦、治安悪化への懸念、そして社会保障の負担増などがある。
たとえば、スウェーデンは暴動やギャング犯罪の増加を受け、移民の受け入れ制限に大きく舵を切った。ドイツでは、労働力不足を理由に技能労働者の受け入れは進めつつも、文化的な適応を強く求める声が高まっている。アメリカでは移民が大統領選の争点となり、国境管理の強化が進行中だ。
そしてフィンランドもまた、こうした「世界の流れ」に追随する形で、移民政策を大きく転換させつつある。
語学力と労働実績が“統合の証”
新たな制度では、永住権の申請には以下の条件をすべて満たす必要がある:
- フィンランド語またはスウェーデン語を「十分に理解」していること(具体的にはCEFR A2〜B1レベルと見られる)
- フィンランド国内で2年以上就労していること(失業手当や生活保護の受給は3か月以内に限る)
- 継続して6年以上滞在していること(例外的に4年でも可能なケースあり)
一部の高所得者(年収4万ユーロ以上)や大学で修士・博士号を取得した人には、特例として短縮申請が認められる可能性があるが、それでも語学力と労働実績は必須となる。
「永住=滞在」ではなく「永住=統合」へ
今回の改正について、マリ・ランタネン内務大臣は「永住を希望するなら、社会の一員としてルールを守り、言語を学び、就労を通じて自立する姿勢が求められる」と語った。これは、移民の“受け入れ”から“選別”への政策転換を明確に示すものだ。
政権を支える右派ポピュリズム政党「フィン人党」はかねてより「社会保障目当ての移民排除」を主張しており、今回の制度見直しはその意向が強く反映されていると見られている。
移民支援団体や学者からは懸念の声も
移民支援団体や一部の研究者からは「語学習得や就労の機会が十分でない人にとっては永住権への道が閉ざされかねない」と懸念する声もある。
「これは“高スキル移民”だけを優遇する仕組み。弱者に厳しすぎる」
「フィンランド語は極めて習得が難しく、十分な習得には何年もかかる」
一方で、市民の間では賛否が分かれている。
「社会保障ばかり頼る人はもういらない。働く意志のある人だけでいい」
「言語も覚えずに権利だけ求めるのはおかしい」
「政府は統合の名を借りて、実は排除を進めてるんじゃないか?」
EU長期居住者制度にも波及
今回の法案には、EU長期居住許可(P-EU)制度にも影響を及ぼす条項が含まれており、これまでよりも取得が難しくなる見通しだ。第三国出身者がEU域内に長期的に定住するには、より厳しい条件をクリアする必要が出てくる。
移民政策は“寛容”から“選別”の時代へ
世界的な移民の流入と社会的軋轢を背景に、各国が次々と移民政策の厳格化に動いている。フィンランドの今回の改正は、その最前線とも言える。
「統合できる者を優遇し、それ以外は制限する」というスタンスは、今後ヨーロッパ各国の標準となる可能性もある。これから永住を目指す外国人にとって、必要なのは「ただ住むこと」ではなく、「社会の一員になること」だ。
これが、“新しい永住の形”となるのかもしれない。