
親米右派のノボア大統領が再選 「中国の海の支配」に対抗へ エクアドルで南米保守回帰の動き鮮明に
2025年4月、南米エクアドルで行われた大統領選挙の決選投票で、親米右派の現職ダニエル・ノボア氏が再選を果たした。南米諸国のなかでも地政学的に重要な立ち位置にあるエクアドルで、保守系大統領の続投が確定したことは、米中の勢力争いの最前線にも影響を与えそうだ。
強まる保守回帰の流れ
今回の大統領選では、2023年に汚職疑惑で退任したギジェルモ・ラソ前大統領の路線を引き継いだノボア氏と、左派のルイサ・ゴンサレス元国会議員との一騎打ちとなった。ノボア氏は決選投票前に米国フロリダを訪れ、トランプ前大統領と会談。保守的価値観や対中姿勢での共通点を強調し、地域の保守回帰の流れと自らの立場を重ね合わせた。
一方のゴンサレス氏は、かつての反米左派政権・ラファエル・コレア元大統領の後継色を色濃く残す候補だった。彼女の当選は中国との関係修復につながると見られていたが、結果的には親米路線の継続が選ばれた形となった。
「内戦状態」の治安悪化
ノボア政権が直面する最大の課題は治安だ。エクアドルは近年、麻薬密輸ルートの中継地として注目されており、暴力事件が激増。2023年の殺人件数は8,000件を超え、人口比では世界最悪の水準に迫る。ノボア氏は「内戦状態」とまで言い切り、軍の動員や刑務所の武力制圧など強硬策をとってきた。
再選後の課題として、こうした治安対策の継続に加え、経済の再建と外交戦略の練り直しが求められている。
中国との経済関係と米国との軍事協力
エクアドルは2023年、中国との間で自由貿易協定(FTA)を締結しており、現在では最大の貿易相手国となっている。主な輸出品は原油、バナナ、エビなどで、中国企業によるインフラ投資や水力発電所の建設など、依存度は年々高まってきた。
しかし、ノボア政権はこうした構造に一石を投じようとしている。アメリカとのFTA交渉の加速に加え、かつて反米左派政権下で撤退した米軍基地の再誘致も視野に入れている。特に注目されているのが、太平洋岸のマンタ基地と、本土から1,000キロ離れたガラパゴス諸島だ。
米中の「海の覇権争い」、焦点はガラパゴス
ガラパゴス諸島は観光資源として知られる一方で、戦略的にも極めて重要な拠点とされる。中国は既にペルーのチャンカイ港に中南米最大級の港湾施設を建設。民間名目ではあるものの、緊張が高まれば中国海軍の寄港が可能とみられ、米国は強く警戒している。
ノボア政権は、この中国の動きに対抗する形で、ガラパゴス諸島への米軍進出を模索。レーダー施設の設置や早期警戒機の展開を通じて、中国漁船の違法操業や、太平洋を経由したコカイン密輸の監視強化にもつなげたい考えだ。
「反中」色をにじませる外交
ノボア氏のこうした動きは、単なる対麻薬対策や治安維持を超え、米中間の「海の勢力争い」へと接続していく可能性がある。中国が経済を軸に影響力を広げる中、米国は軍事的なプレゼンスで巻き返しを図ろうとしている。
その最前線が、今やエクアドルとなりつつある。
今後の焦点
ノボア政権が米国とどう関係を深め、中国との関係をどう再調整していくのかは、今後の中南米全体の安全保障バランスにも影響を及ぼすだろう。
また、米軍基地の再誘致には憲法改正が必要とされ、国民の賛否が分かれる可能性もある。エクアドルが今後、米中双方との距離感をどう保つのか。注目が集まっている。
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