
北朝鮮が、海軍の戦力強化に向けた新たな動きを見せた。国営の朝鮮中央通信(KCNA)によると、同国のミサイル総局は28日から29日にかけて、5000トン級の新型駆逐艦「崔賢(チェ・ヒョン)」に搭載した巡航ミサイルなどを試射した。試射の様子は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が自ら視察しており、「海軍の核武装を加速させるべき時が来た」と語ったという。
就役目前の新型駆逐艦「崔賢」
問題の駆逐艦「崔賢」は、北朝鮮西部の港湾都市・南浦(ナムポ)にある造船所で建造された最新鋭艦で、4月25日に盛大な進水式が行われたばかり。式典には金正恩氏のほか、娘と妹・金与正(キム・ヨジョン)氏の姿も確認された。建造期間はおよそ1年強とされ、同艦は「外洋作戦に対応可能な主力艦」と位置づけられている。
韓国の軍事専門家によれば、この駆逐艦は巡航ミサイルのみならず、弾道ミサイルや対空ミサイル、電子戦装備なども搭載可能とみられており、実戦配備が進めば東アジア地域の軍事バランスに影響を与える可能性がある。
巡航ミサイルを海上から発射 核搭載の可能性も
試射に使われたのは、核弾頭搭載が可能とされる戦略巡航ミサイル。発射はすべて海上で行われ、標的に命中したと報じられている。金正恩氏は視察後、「わが海軍は、これまでになく重要な任務を担うようになった。核武装の時代にふさわしい力を持たねばならない」と述べ、担当部門に対し今後の強化計画を指示したという。
ただし、今回の試射では弾道ミサイルの発射は確認されていない。関係者によれば、技術的な実験段階である可能性が高く、今後の段階的開発に向けた布石と見られる。
駆逐艦の性能は「レーダー次第」
駆逐艦の脅威度について、ある外交筋は次のように語る。
「巡航ミサイル自体は各国が保有していますが、問題は発射プラットフォームとしての艦の性能です。とくに海上では、目標を正確に補足できるかどうかはレーダーやセンサーシステムの性能次第です。仮にロシア製技術のコピーや支援があるとすれば、今後の性能向上もあり得る」
実際、公開された映像ではロシア艦艇に似た形状の武装も確認されており、北朝鮮とロシアの軍事技術交流が水面下で進んでいる可能性も指摘されている。
海軍の核戦力化へ布石、原子力潜水艦も視野に
金正恩氏は今回の試射を通じて、明確に「海軍の核武装」という方針を打ち出した。北朝鮮はこれまで、弾道ミサイルを中心とする陸上配備型の戦力強化を進めてきたが、今後は原子力潜水艦の建造にも着手する構えを見せている。
「強力な先制攻撃能力こそが最大の戦争抑止力だ」というのが金氏の一貫した持論であり、それを海軍にまで拡大しようというのが今回の試射の狙いだろう。
日米韓は警戒強める構え
この動きに対し、日本や韓国、米国は警戒を強めている。とくに米韓両軍は、北朝鮮が巡航ミサイルに核弾頭を搭載可能な能力を得た場合、従来のミサイル防衛網では迎撃が難しくなると指摘。地域の安全保障にとって新たな脅威となる可能性がある。
韓国国防省は「北朝鮮の意図的な挑発行為であり、国連安保理決議にも明確に違反する」と非難し、日本政府も「断じて容認できない」として外交ルートを通じた抗議を行った。
SNSでも波紋「日本海が戦場になるかも」「もうミサイル慣れた」
ネット上でも、今回の試射をめぐる議論が活発だ。X(旧Twitter)にはこんな投稿が見られた。
巡航ミサイルが日本のEEZに落ちる日も近いのでは…日本海が最前線になるのか
金正恩の核武装アピールも、もう新鮮味がない。打っても制裁は変わらないし
一方で、「駆逐艦まで持ち出すとは、海でも勝負する気か」「そろそろ本気で抑止策を考えるべき」といった声もあり、国民の不安と無力感の入り混じった空気が広がっている。
北朝鮮の軍拡は新段階へ 国際社会の連携が鍵
北朝鮮の海軍が、ついに核ミサイル搭載艦を実用段階に進めようとしている。今回の駆逐艦「崔賢」の巡航ミサイル試射は、単なるデモンストレーションではなく、海軍力の近代化と核戦力の拡張に向けた本格的な布石と見るべきだ。
金正恩政権が原子力潜水艦にまで意欲を示している今、東アジアの軍事バランスは再び不安定化しつつある。日本を含む国際社会は、軍事的抑止だけでなく、外交的圧力と情報戦を含む多角的な対応を迫られている。
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