中国、米国への対抗手段を拡大 映画輸入制限・ボーイング機排除で圧力 新興国と共闘強化

中国、対米報復で「映画」と「航空機」を武器に 新興国共闘も加速

米中の貿易戦争が激化する中、中国は従来の関税応酬を超え、映画や航空機といったソフトパワー・ハードパワーの両面を使った新たな対抗策を打ち出している。さらに中国は、グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国群との連携を強化し、対米包囲網の構築に乗り出した。これにより米中対立は単なる貿易問題を超え、国際秩序をめぐる主導権争いへと発展しつつある。

米中、関税戦争は「打ち止め」 中国は別の対抗策にシフト

アメリカと中国は互いに100%を超える追加関税を課し合い、貿易戦争の泥沼に陥っている。しかし、中国側は報復関税をこれ以上エスカレートさせない方針を表明し、代わりに新たな対抗策を講じ始めた。

中国国家発展改革委員会の趙辰昕副主任は4月28日の記者会見で、アメリカからの主要穀物やエネルギーの輸入が途絶えても、中国経済への影響は限定的だと強調。「輸入元の多角化を進めてきたため、米国依存度は低い」と自信を示した。

事実、中国は第1次トランプ政権下での貿易戦争を教訓に、ロシア、ブラジル、オーストラリア、東南アジア諸国からの輸入比率を高める政策を続けてきた。これにより、単一国依存のリスク回避に成功しつつある。

外交筋も「今回のトランプ再登場に備え、中国は十分な準備を整えていた」と語る。習近平政権は米国との関係悪化を前提に、経済・外交両面で耐性を高めてきたのだ。

映画と航空機で対米圧力 米国産業界に打撃

関税以外で中国が打ち出した目立つ対抗策のひとつが、文化と航空産業を通じた圧力だ。

4月10日、中国国家映画局は「米国映画の輸入量を適度に減らす」と発表。ハリウッド映画は中国市場で大きな収益を上げてきたが、上映枠が削減されれば、収益構造に大打撃となる。2023年、中国は全世界興行収入の30%近くを占め、ハリウッドにとって不可欠な市場だっただけに、影響は甚大だ。

さらに、中国民用航空局は国営・民間を問わず国内航空会社に対し、米ボーイング社製航空機の納入受け入れを停止するよう非公式に指示したと、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じた。これにより、すでに受注減に苦しむボーイングにとっては新たな痛手となる。

中国は航空機需要が世界最大級の成長市場であり、ボーイングにとっては死活的に重要な存在だ。代替として、中国は欧州エアバス社製機や、自国開発の「C919」旅客機の導入拡大を進めている。

新興国・途上国を巻き込み、対米「共闘」路線を強化

中国は、米国との直接対決だけでなく、周辺国・新興国との共闘によって国際世論戦を有利に運ぼうとしている。

習近平国家主席は4月14~18日、ベトナム、マレーシア、カンボジアの東南アジア3カ国を歴訪。「一方的ないじめ行為を許してはならない」と述べ、米国を念頭に置いた共闘を呼びかけた。特にベトナムでは、米中間で微妙なバランスを取ってきたが、近年中国が南シナ海での影響力を拡大しているため警戒感も根強い。一方で経済面では中国との結びつきも強く、習近平はその矛盾を巧みに突こうとしている。

また、王毅外相は28日、ブラジル・リオデジャネイロで開かれたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)外相会合に出席。「あらゆる形の保護主義に反対する」と訴え、アメリカ主導の経済制裁や関税引き上げに対抗する姿勢を鮮明にした。

BRICSは人口規模・経済規模ともに無視できない勢力であり、今年から新たにエジプト、サウジアラビアなども加盟予定で、一層の拡大が見込まれる。中国はこの枠組みを利用して、国際秩序の多極化を推進し、米国主導の世界秩序に挑戦しようとしている。

トランプ再登場をにらんだ中国の長期戦略

米国では2024年大統領選でトランプ前大統領が復活。対中強硬路線を掲げており、米中対立はさらに先鋭化するとみられている。

中国政府は、トランプ政権との長期対決を視野に、内需拡大、供給網(サプライチェーン)強化、自前技術の育成に力を入れている。国策企業支援による「経済的自立」の動きも一層加速している。

外交面でも、「一帯一路」構想を通じたインフラ支援や、人民元決済網の拡大など、ドル基軸体制への対抗手段を着々と整備している。

また、AIや量子コンピューターといった次世代技術分野では、米国の規制強化にも屈せず、独自開発を加速。半導体製造技術でも、国家資金を投入して国産化を推進している。

中国にとって、今回の米中貿易戦争は単なる一過性の問題ではなく、「未来の世界秩序」を左右する本格的な長期戦であるとの認識が強い。

米中対立は新たな局面に

  • 中国は報復関税を「打ち止め」とし、映画・航空機を使った新たな対抗策にシフト。
  • 新興国・途上国との連携を強化し、対米包囲網を構築。
  • 経済・技術・外交のあらゆる面で「長期戦」体制を整備。
  • トランプ政権との対決を見据え、「新しい国際秩序」の構築を目指す。

中国の武器は「映画」と「航空機」? トランプ政権に徹底抗戦、新興・途上国に共闘呼びかけ

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